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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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鳥益は手を繋ぐのもドギマギすれば良いと思うんだ。





付き合い始めたと言っても、2人の関係がどう変わったと云う訳でもない。
お互いの職業柄、曜日は関係ないし休みも不規則で、なんやかやと事件に
巻き込まれたり探偵の面倒ごとに巻き込まれたりして予定も合わせにくい。

結局会うと云っても飲みに行くくらいで、そしてどうせなら青木も
誘おうかという話になって、いつも通り3人で適当に飲んで、
酔って潰れた青木を介抱しつつ終電前には解散するという、以前とあまり
変わらない付き合いだ。色気のあるシチュエーションになだれ込む事もない。

それでも、ふと指先が触れ合う温度だとか、ふとした時に交わる視線だとか、髪を
撫でる手の自然さだとか、そういった所に滲む鳥口の優しさが益田には心地よかった。

ただ、たった一度だけ口吻けをした事がある。
青木の下宿のある水道橋の近くで3人で飲んだ帰り、
案の定潰れた青木を部屋まで運び2人で駅までの道を
とりとめのない話をしながら手を繋いで歩いた。頬に心地よい春の風。

「益田くん、目ぇ瞑って下さい」

人通りのない路地に入ってから鳥口がぽつりと言ったその一言で、
益田は次に訪れる事態を察した。立ち止まって言われたとおりに目を瞑る。
益田の口にゆっくりと、想像以上に柔らかい口唇が重なった。強引に腕を引いて
口吻けられなかったのは、連日榎木津と顔を合わせる益田への、鳥口なりの配慮だ。

「好きですよ、益田くん。お休みなさい」

柔らかく笑ってそう別れを告げた鳥口をホームで見送りながら、益田はそっと
自らの口唇を指でなぞった。一番仲の良い友達から恋人にステップアップした夜、
益田はなかなか寝付く事が出来なかった。



「ごめん。本当に言われるまで知らなかった。聞かなかった僕が悪いよね。・・・ごめん」
恋人失格だよね、と言う前に「いや、僕もあえて言わなかったしさ」と鳥口は笑った。
「念願のライカも手に入れたし、特に欲しい物も無いんだよね、実際の話」

紅茶を来客用のカップに注ぎながら、それでも益田は妙に居心地の悪い気分に
なってしまう。付き合っていたら普通、最初に誕生日を聞いて、それなりに準備をしたり
するものなのではないのか。相手の欲しい物を事前に調べて、こっそり準備し、当日に
いきなり渡して恋人を驚かせるものではないのか。そう思って所在なさげに
ティースプーンをカチャカチャさせていた益田に、「じゃあさ」と、鳥口が声を掛ける。

「欲しい物は無いんだけど、して欲しい事はあるんだ。聞いてくれる?」
「なに?僕にできる事だったらお詫びに何でもするけど」
「お詫びとか言わないでいいってば。てか益田くんにしか出来ない事だよ」

「・・・キスしてよ。益田くんから」

キスなんてハイカラな言い方だな、と益田は思った。
いつも自分を優しく気遣ってくれる鳥口。自分の心をを満たしてくれる鳥口。
そんな鳥口に自分は何も返せていないのではないかと常に不安だった。

だから、そんな彼を喜ばせてあげられる事なら
何でもしてあげたいと思ったのは、紛れもない事実だ。

「・・・それだけでいいの?」
「いいよ。てか、それだけで充分だし」

それだけ言って、鳥口は目を瞑ってみせた。
ちょうど先日の益田と逆になる格好だった。
益田は何故かそこで深呼吸をし、拳にギュッと力を込めた。
覚悟を決める為のポーズだ。

「じゃあ・・・するよ?」

恐る恐る、といった様相でゆっくりと顔を近づけた。30センチの距離がとても遠い。

鼻息がかかる程まで近づいて、目を瞑ると意外と精悍な顔つきになる鳥口の顔を
見つめる。あの日の答えを言わなければならない、と益田は唐突に思った。

「・・・僕も好きです。鳥口くん」

目を瞑ったまま、鳥口は微笑んだ。口唇まで5センチ。その時、

「ワハハハハ!そうだ!僕だ!帰ったぞマスヤマ!!お前のご主人様のご帰還だッ!!」
バーン!と扉をぶち破らんばかりの勢いで突如として麗しい躁病の神が飛び込んできた。
「鳥ちゃんも居たのか!ようこそ鳥ちゃん!マスヤマが邪魔で視界に入らなかったゾ!!」

切り裂かれた沈黙。ちょっとドキドキした空気の喪失。無理やり引き戻された現実空間。

「なんだマスヤマもトリ頭も鳩が豆鉄砲みたいな顔して。バカが余計バカに見えるぞ!」
そう言いながら榎木津はおもむろに2人の頭上に視線を送った。「視て」いるのだろう。
「・・・お前達、人の事務所で何してるッ!なんというハレンチ!おお、いやらしい!」
「しっ、してないです!してないです何も!ねぇ鳥口くん?!」
「そうです!まだ何もしてないッスよ大将!!」
まだ、という事はこれからする気満々だったという事になってしまうが、
そんな事は構っていられない。わたわたと必要以上に挙動不審になっている2人に
榎木津はフン、とつまらなそうに鼻を鳴らし

「バカが2人して鬱陶しい!僕はこれから寝るのだ。神の眠りの邪魔をしたら許さんぞ!」
そう言うが早いかバタンッ!と大きな音を立てて寝室に引っ込んでしまった。

嵐が去った後、ソファに取り残された2人は何だか一気に毒気を抜かれてしまった。

呆然と顔を見合わせたまま、急におかしくなってどちらかともなくプッと笑った。
「・・・ごめんね、鳥口くん」
「・・・益田くんのせいじゃないよ」
クスクス笑いながら、じゃあさ、と甘えるような声を出して鳥口は言った。


「今夜、僕の家においでよ。いいでしょ?」
うん、の返事の替わりに、益田はギュッと鳥口の頭を抱きしめた。




(終)
















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趣味:
電車で読書。
自己紹介:
益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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