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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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第3話。

榎は鳥ちゃんに出会った事で色々と救われていると良いな。
 







榎木津はくわえ煙草のまま、静かに語る。

「僕の目の事を知るとね、大体の人間は3通りの反応をするんだ。まずは“信じない派”。
嘘だそんな事がある訳ないって言い出して煩いから、ああ今朝アンタは何を食って
来ましたねと言って茶碗の柄でも当ててやれば大抵黙る。まぁ家庭持ちの奴に言って
細君との間柄を疑われちゃ堪らないから、これは独居の奴に有効だね。

次に“陶酔する派”だ。素晴らしいアンタの能力はもっと多くの人々の為に使うべきだ、
アンタは選ばれた人間だと、いかがわしい連中がわんさか集まって来る。僕が選ばれた
神だって事は僕自身が一番よく知っているよ。あんまり鬱陶しいから殴りつけてやった。

そして最後は“恐れる派”だ。この能力を見せつけてやれば力そのものは信じる。
ただ、その瞬間そいつらの顔には“こいつは化け物だ”って大きく書いてある。
失礼だから丁重に蹴り飛ばしてやるのさ。
・・・どう思われようと僕は元からこうなんだから仕方ないのにねぇ」

世の中には馬鹿と愚かが多くて困るよ。

そう言って彼は少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうに笑った。
彼は二人きりの部屋では存外「どこにでも居る普通の男」として振る舞うのだと云う事を
付き合って暫くしてから知った。この、自分達しか存在しない空間では、彼は両腕を
水平に伸ばして世俗とのバランスを保つ必要が無いからだろう。

ここでは神も王様も道化師も、その力を一時的に封印して「夜」と云う名の橋を
渡る事が出来るのだろう。その相手に据えられているのが他ならぬ自分自身である
と云う事実に、鳥口はいつも震えそうになる。

木場や中禅寺と二人きりでいる時のように自分に全てを晒け出してくれているのだとしたら
こんなに誇らしく嬉しい事はないのだけれど、それと同時に「果たしてその役目は
自分で良いのか」と云う気になるのも、紛れもない事実である。
有り体に云えば、彼と云う計り知れぬ存在を受け止めるだけの器が
自分にあるのかどうか、鳥口には自信が無いのだ。

「僕の目の事を理解しても顔色を変えなかったのは、幼馴染みの修太郎と
司と京極堂くらいのものさ。変わり者ばかりで嫌になるね」

そこまで言うと、彼はまだ少ししか吸っていない煙草を揉み消し、
肺に滞った僅かばかりの煙を吐き出した。

「大将、」
「ああ、変わり者の中には君も居たね。とびきりの変わり者だ」

そう言って榎木津は寝返りを打つ。鳥口は焦る。
自分のつまらない嫉妬で榎木津が傷付くのは耐えられなかった。自分はただ、
若い女に手を振った榎木津に対し、稚拙な妬気で不機嫌になっていただけだ。
榎木津の“視る能力”を疎んじていた訳では決してないのだ。
それを伝えなくてはと焦れば焦るほど、言葉は上手く唇を滑ってくれない。

「大将、僕は…」
「いや、一番変わってるのは僕だね。それは僕自身が一番分かっている事なんだ。
・・・こればっかりは仕方がない事なんだけどねぇ」

鳥口は、そう言って本格的に顔を背けようとした榎木津の肩を掴んで
強引にこちらを向かせると、無理な体勢のまま己の唇を相手のそれに
ぶつけるようにして力技で口吻けた。歯と歯がぶつかってカチリと音が鳴る。

自分の拙い言葉なんか頼りにならない。中禅寺のように上手い言葉を重ねて
相手を救う事も出来ない。しかし、だからこそそんな距離を補う為に
身体があるのだと云う事を、鳥口は己の少ない人生経験の中で体得していた。

痛い程の強さで下唇をきつく吸い上げる。チュッと音を立てて唇を離すと、
腕の中で榎木津が目を瞬かせた。見れば肩が微かに震えている。

(な、泣かせちゃった…?!)

まさか榎木津に限ってとは思うが、今夜の彼は何だかいつもと様子が違う。
榎木津相手に“弱々しい”と云う形容をする日が来るとは思わなかったが、
一言で言い表すならば正にそんな感じである。

鳥口はおたおたしながら恐る恐る榎木津の顔を覗き込んだ。
自分のつまらない嫉妬が彼をそこまで傷付けてしまったのかと本気で焦る。

「大将、いや、榎木津さん…?」
「・・・」
「礼二郎さん、あの・・・」
「鳥ちゃん・・・」

鳥口はどうしたら良いか分からなくて、震える榎木津の肩をそっと抱いた。
俯いた榎木津は、鳥口の胸の中で肩を震わせて、思い切り



「あははははは!!」



・・・笑った。

「うふふふ。やっぱり鳥ちゃんは面白いねぇ!
こんなにあっさり引っ掛かるとは思わなかったよ」

「なッ!一杯食わせましたね!?からかわないで下さいよ!こっちはてっきり…」

「“榎木津さんが泣いてると思ったのに”?」

「ッ!そうですよ!てか、いちいち人の気持ちを先読みして言うの止めて下さいってば!」

「だって君、分かりやすいんだもの」

「だからって!」

「君が乳母車のご婦人にヤキモチを妬いてた事くらい百も承知だよ。
まぁ恋人に嫉妬もしてもらえないんじゃ男として寂しい限りだけど、まさか
こんな簡単に引っ掛かるとは思わなかったよ。やっぱり鳥ちゃんは可愛いねぇ。
口吻けで慰めてくれるんだもの」

「もう!」

鳥口は頬を膨らませてみせるが、榎木津は気にも留めない。
それどころか楽しそうに口角を吊り上げてニヤリと笑うと

「…でもまぁ、僕の愛を疑った責任はちゃんと取ってもらわないとね」

と言って鳥口の肩を掴んでドサリと押し倒すと、自らマウントの姿勢を取った。

「た、大将…?」
「君は責任を取って、僕を“最後まで”慰めなさい」
「ーーーッ!!」

榎木津の意図を察して鳥口は慌てて起き上がろうとするが、
腰を押さえ付けられて身動きが取れない。

「大将!今夜はもう無理です!もう体が、」
「何言ってるんだい、体力自慢のくせに」
「明日も早いですし!」
「若いんだから一晩くらい寝なくたって平気だよ」
「一晩も付き合わす気ですか!?死んじゃいますよ!」
「大袈裟だなぁ」
「ちょっ!どこ触ってるんですか!」

鳥口は身を捩るが、腰を絡め取られて逃げ場を失くしてしまう。
尚も抗議を重ねようとするが、それも榎木津の唇によって塞がれてしまう。
耳元で榎木津が囁く。

「神の愛を疑った報いだ。身をもって受けてもらうよ。覚悟しなさい」
 

ーーーそこから先は、榎木津のなすが侭だった。


(4) へ
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