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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★榎鳥SS第3弾。このコンビは可愛くて大好きです。

「え~?榎さんと鳥ちゃん?有り得ないんだけど」と思ってるそこのお嬢さん。
もう一度「鉄鼠」の旅館のシーンをご覧下さいまし。。。
ほら、あの榎の命令で鳥たんが木に登らされて落っこちるシーンですよ。

ね・・・アリでしょ??ちょっと大将に甘えてる鳥ちゃんが可愛いでしょ??

鳥ちゃんの前では榎は「素」な感じでゆったりしてるとイイなぁ。。。
ヤキモチ妬きの鳥ちゃんと大人な榎のお話です。

中禅寺師匠を初書きしました。秋彦さん難しいよ・・・。







貴方にとっての自分も、そうでありたいと願う。


『晴れた空に君を想う事』


どこまでもだらだらと続く石畳の上を、鳥口は榎木津と肩を並べて歩いている。
梅雨の合間の、珍しくからりと晴れた日曜日。

二人は特に待ち合わせをして出掛けた訳でもない。

ただ、鳥口は中野に取材に来た帰りに馴染みの古書店に顔を出し、
そこの座敷で猫と戯れてゴロゴロしていた探偵と偶然、遭遇したのである。

鳥口の“師匠”こと中禅寺は、いつも通りの不機嫌な顔をして、
(しかし鳥口は彼の表情と機嫌は必ずしも一致しない事を知っている)
顔は読みかけの本から上げぬまま、朗読でもするような口調で

「やあ鳥口くん。来た早々悪いが、そこに居る職務怠慢な探偵を連れて帰ってくれないか。
今日は千鶴子も居ないし、僕もこれからすぐに出掛けなくてはならなくてね」と言った。

件の探偵は猫と同じ姿勢で伸びをして、ふるふると頭を軽く振ると
「お迎えご苦労。帰ろう、鳥ちゃん」と言って笑った。

鳥口は結局、茶の一杯の持て成しも受けぬまま京極堂を後にしたが、特に来訪の
約束を取り付けていた訳でも無かったのでこれと云って異存は無かった。
ただ、榎木津を“職務怠慢”呼ばわりした彼の店先に、お馴染みの「骨休め」の
札が掛かっているのを見て少しだけ苦笑してしまったのだが。

(案外、似た者同士だから気が合うんだろうな)

中禅寺の耳に入れば確実に、世界が三度滅んだような仏頂面で睨まれるのは
必至な事を考えながら鳥口は榎木津と共に眩暈道を下った。





中禅寺の話に寄ると、榎木津は連日のように京極堂を訪れては取り留めのない
話をしたり、座敷に寝そべって猫と遊んだりそのまま眠ってしまったりと、
実に勝手気ままに過ごしているのだそうだ。

ふらりとやって来てふらりと帰る。「まるで猫みたいな奴だ」と言って
中禅寺は、彼にしては珍しい優しい目をして語っていた。

ただ、鳥口が彼らと知り合って感じた事は、気まぐれで連日遊びに行くにしては
中野と神保町は離れ過ぎていた。
徒歩と都電と電車を乗り継いでも軽く1時間以上は掛かる。小説家の関口のように
同じ中野在住ならともかく、それだけに関して言えば良くもまぁ勤勉な事をと思った。
以前にその事を榎木津に告げると、事も無げに一言、

「あそこに行けば、にゃんこに会えるからな」

と言った。榎木津は無類の猫好きなのだ。





彼の住まいも兼ねた探偵事務所へ続く石畳を歩いていると、向こうから
乳母車を引いた若い母親が歩いて来た。途端に隣の彼がはしゃぐ。

「鳥ちゃん見ろ!赤ちゃんだ!赤ちゃんだぞ!」

「はぁ。確かに赤ん坊ですねぇ」

鳥口は何の気なしに返すが、隣の榎木津は既に鳥口の相槌など聞いていなかった。

「可愛いなぁ!なんて可愛いんだろう!頬っぺなんかふわふわで
マシュマロみたいだ!まるで天使みたいだねぇ!」

「大将、そんな大きな声を出したら赤ん坊が起きちゃいますよ!」

「これが叫ばずにいられるか!ごらん、鳥ちゃん!あの愛らしさを」

「大将!分かりましたから!」

通行人がそんな自分達のやり取りを見てクスクス笑う。益田が以前、
「榎木津と往来を歩くのは恥ずかしい」と言っていたが、それを実感するのがこんな時だ。

乳母車を引いている母親は最初、我が子を指差して騒いでいる榎木津に不審な目を
向けていたが、すれ違い様に榎木津の顔を見て一気に顔つきが変わる。
浮かべた表情は「照れた様なはにかみ笑い」である。

慣れとは怖いものである。忘れた訳ではないが、榎木津は道を歩けば
誰もが振り向くほどの美丈夫なのだ。そんな見目麗しい美男に我が子を手放しで
誉められれば、誰だって悪い気はしないだろう。

悪い気どころか若い母親は、まるで自分が誉められたかのように
頬を染めて榎木津に向けて会釈をしているではないか。
そんな彼女に榎木津は片手を軽く上げて応える。その行動の一つ一つが
いちいち映画のワンシーンのように絵になるのが榎木津の榎木津たる由縁である。

つくづく美男子とは得なものである。

鳥口はそんな彼の隣で、少しばかり面白くない気分になってしまう。
確かに榎木津は赤ん坊がとても好きで、その可愛がり様たるや尋常ではない事は
自分も知っている。しかし今ここで問題にすべきなのはその事ではない。
問題なのは先ほど述べた通り、榎木津が目が覚めるような美男子であると言う点である。

・・・確かに榎木津はモテる。それは本人の望む望まないに関わらず相手が
近寄ってくるのだから、仕方ない事である。

ただ、それは榎木津本人に全く気がない事が前提である。

しかし、今のように少しでも榎木津が愛想を振りまけば相手は立ちどころに
“その気”になってしまう。榎木津が単なる気まぐれだったとしても、である。

(自分と一緒にいる時は自分の事だけ考えて…か)

自分が以前付き合っていた女の子に言われた台詞だ。
それを言われた時、自分は正直「面倒臭いな」と思ってしまった。
まさか自分がそんな女の子の面倒で重たい部分と同じ気持ちを抱くようになるとは。

榎木津はちゃんと自分の事を好きで、自分も榎木津が好きで、それは確たる事実で、
一つの寝床を分け合って朝を迎えた事も両手の指だけでは足りない程なのに。
こんな場面で袖にした彼女の気持ちを痛感する事になるとは思わなかった。

(こんな事なら、もっと優しくしてあげれば良かったなーーー)

そんな事をつらつら考えていると、急に榎木津の顔が
間近に迫って来て、思わず仰け反ってしまう。

「な、なんですか大将?!びっくりするじゃないですか!」
「ふーん」

榎木津は鳥口の抗議など意に返さず、頭上辺りを見つめてニヤニヤしている。

「…うふふ。鳥ちゃんはヤキモチ妬きだね」
「ーーッ!!ちょっと!勝手に視ないで下さいよぅ!!」

図星を突かれて鳥口は真っ赤になる。
それでも、子連れの母親に嫉妬していた事を認めたくなくて、
わざと素っ気ない態度で早口で言葉を紡ぐ。しかし、そんな事をすれば
余計に気持ちが伝わってしまう事に、鳥口は気付いていない。

「別にヤキモチなんて妬いてません。
ただ、そんなに赤ん坊が好きなのかと思って感心してただけです」

「うん。赤ちゃんは好きだよ。可愛いし、柔らかいし、いい匂いがするもの」

「そんなに好きなら自分で作ればいいんだ。大将の子供が欲しい
女の人なんて行列が出来る程いっぱい居ますよ、きっと」

・・・言った瞬間、しまったと思った。
自分はこんな事が言いたかった訳じゃないのに。
子持ちの女に榎木津が微笑み掛けたからと言って別に何がある訳でもないと云うのにーー。

恋は盲目とは、よく言ったものである。

鳥口は恐る恐る榎木津の顔を見上げる。
彼は助手の益田にするように自分に手を上げたり罵倒する事は無いが、
自分の今の発言で気分を害してしまったかも知れない。

しかし、当の榎木津はそんな鳥口の不安など
どこ吹く風で涼しい顔で暮れ掛かった空を見上げた。

「馬鹿だなぁ鳥ちゃん。僕は赤ちゃんが好きなだけで、別に“欲しい”訳じゃないよ」

そう言うと優しい顔でこちらを見つめ、

「予定変更。今日はこのまま君の部屋に行こう。
帰って和寅とバカオロカの顔なんか見たってつまらん」

そう言うと本来なら真っ直ぐ歩くべき道を、その長いコンパスでスタスタと
左に曲がって行ってしまった。鳥口も慌てて後を追う。

心に少しばかりのざわつきを覚えながらーーー。


(2) へ
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