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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★これを書いてた時は言わずもがなで脳内が「怪」益田の鳴釜ブームでした^^;













私が例の奴らに会ったのは、それから間もなくの事だった。
庶民の妬みから言う訳ではないけれど、つくづく成金の金持ちと云うのは
下品で下らない人種だと思い知らされる。連中は口を開けばやれ左ハンドルの車が
どうのこうの、今してる時計はイタリア製の何とかだのと、こちらが黙って聞いていれば
金の話か自慢話しかしやしない。

打算計算尽くで手元に舞い込んだ富や名声を、ここぞとばかりに触れ回らなければ
居られないのだろう。そんな薄っぺらな物を後生大事にして、大声でそれらステイタス
(…と思っているのだろう)を誇示しなくては自分の存在がアピール出来ないなんて、
哀れと云えば哀れな話ではあるけれど。

だから、そんな下品な連中には一生掛かっても理解出来ないだろう。
本当の品格と云うものは、今日まで吸ってきた空気と飲んできた水、
触れてきた光で決まると云う事を。

例えばそう―――あの人のように。

私は瞼に浮かんだ“あの人”の仕草を一つ一つゆっくりと脳内で反芻した。

あの人は、自分の持っているものを周囲に誇示したりしない。
そもそも他人と自分を比べて一喜一憂したり、妬んだり僻んだりする事が無いからだ。
あの人は眠い時に寝て起きたい時に起きるから時計なんて必要ないし、車だって
ハンドルが右だろうが左だろうが、自分の行きたい場所まで走りさえすれば良いのだろう。

それからあの人は例え机に脚を投げ出して寝ていようが、欠伸をしながら新聞を
読んでいようが、どことなく漂う空気のような気品がある。何もかも兼ね備えて
生まれてきた余裕のなせる技か、彼のような人種こそがまさに生まれながらの
貴族と呼ぶに相応しいのだろう。

我々凡人には理解し難い突飛な事を話しつつも、あの人のティーカップを操る指先の
優雅さは、ここに居る連中が一生涯掛けても体得出来はしない物なのだ。

(結局、今日の潜入調査の事、榎木津さんに何も言わずに来ちゃったな…)

尤も、言った所できちんと話を聞いて貰える可能性なんて限りなくゼロに近いけれど。
協力して欲しいだとか守って欲しいなんて最初から期待した事はないし、普段から
私の事を馬鹿だなんだと罵倒して来るあの人を、ここいらでアッと言わせる
良いチャンスだ。なんせ自分は仮にも元婦警なのだから、この位の調査、
なんて事はない…はず。

(頑張らなきゃ。早苗さんと、生まれたばかりの梢ちゃんの為にも…!)

そう決意を新たにした私は、耳を塞ぎたくなるような下卑た笑い声の隙間を縫って、
例の下品で馬鹿な連中に親しげに声を掛けた。

「…お兄さん方、随分と楽しそうだねぇ。僕も混ぜておくれよ」





「で、その生意気なBG(ビジネスガール)を暗がりに誘い込んでさぁ…」
「おい、本当かよ!?」
「お前やるなぁ!」

馬鹿はどこまで行っても馬鹿だ。
連中はあっさり私を信用して話に加わった。神奈川県警時代に培った
囮捜査のイロハを遺憾なく発揮しつつ、私は口先だけの嘘八百を並べ立てる。

「女なんてどれも同じだね。どんなにお高く止まってたって、
 裸に剥いちまえばどれも一緒さ。そう思うだろ?」
「確かにそりゃそうだ!」
「なぁ、もっと聞かせろよ!」

酒場で捕まえたのは櫻井某の参謀である江端と殿村の2人だった。
櫻井本人と今井と久我の姿はなかったけれど、まずは連中の5分の2と
接触出来たのだから、まぁ首尾は上々だろう。

「それからこの前は年上の未亡人とさぁ、」
「凄ぇな!まだあるのかよ!」

馬鹿共は鼻の下を伸ばして私の偽物の武勇伝に聞き入っていた。

(前に無理やり聞かされた司さんの話が、まさかこんな所で役に立つとは…)

まさかこんな場面で、あの性豪顔負けの彼の体験談が有効に活用されるだなんて、
世の中分からないものだ。

(でも、それをあの人に言うのだけは止めておこう。
 お礼なんか言った日には絶対に調子に乗るもの・・・)

榎木津さんと旧知の間柄だと言う司喜久男なる人は、決して悪い人では
ないのだけれど(多分)、どこか夜の空気を纏っていて私は正直、彼の事が
少しばかり苦手だった。 なんせ彼と来たら隙さえあれば私をデートに誘おうとするし、
いつも自身の女性経験の豊富さを匂わせては「優しくするよ」などと甘い声を出して
言い寄って来る。そもそも初対面で自分は彼からいきなり「益田ちゃん」と、ちゃん付けで
呼ばれたのだ。その後も、さり気なく肩を抱かれたり手を握られた回数なんて、
数えるのも面倒な程だった。

これだけ挙げてみても分かる通り、彼は相当なプレイボーイに違いない。

(チャラチャラと調子の良い男の人には気を付けなさいって、お母さんも
 よく言ってたし。東京には危険がいっぱいだって、お父さんにも言われたし…)

隣県に住む優しい両親の教えを胸に秘めつつも、今現在、話している内容が先日
事務所で行われた酒盛りで司さん本人から面白半分で聞かされた(どこまでが
実体験でどこからが創作なのか分からない)武勇伝を、あたかも我が事のように
誇張して喋っているのだから、情けないと言えば情けないけれど。

「でもさぁ、かく云う僕も輪姦だけはした事が無くってねぇ。我が人生最大の汚点さ。
 なんせあれは人員が必要だろう?我こそはと云う気骨のある奴が居ないんだね。
 本当、情けない話だよ」

私がそう言ってわざと溜め息を吐いてみせると、
左に座っている江端の方が話に食いついた。

「ふふん。じゃあ…俺達の方が上だな」
「上?」

私の聞き返す声に被せて、他の男が口を挟む。

「そう言えば、あの去年の“マワシ”、あれはお前らの仕業だったろ?」
「そうそう。哲哉様ご本人と今井と久我も入れてさ。相手は哲哉様の
 屋敷のメイドだろ?全く、次は俺達も誘ってくれよな」

(言った!確かに言った!櫻井を含む5人でやったって、
 私、いま確かにこの耳で聞いた…!)

決定的な確証を連中の口から直接聞いて、私はテーブルの下で拳を握り締めた。
本当はその瞬間に店から飛び出したかったけれど、私の心中など知る由もない男達
は鼻の穴を膨らませて滔々と自らのしでかした悪事を自慢気に語り始める。

「最初はキャーキャー言って泣いて暴れてたけどよ、着てたブラウス引き裂いたら、
 途端に大人しくなってやんの」
「哲哉さんに突っ込まれた途端、ダランと人形みたいになっちまってさぁ」
「その女、哲哉様の事が好きだったんだろ?
 なら願ったり叶ったりで感無量だったんじゃねぇの?」
「“アアンッ×××気持ちいいッ!私こんなの初めてッ!”ってな!」
「わははは!!」

連中の一人が馬鹿げた仕草で体をくねらせると、その場にいた連中全員が一斉にドッと沸いた。

(最低。最低だ、コイツら―――!)

テーブルの下で握り締めた手がぶるぶる震え、胃の腑の底が焼けるように熱くなった。
コイツらに、こんな卑劣な奴らに、何の罪も無い早苗さんが―――。

そう思うと悔しくて悔しくて、私の目には知らず知らず涙が浮かんでいた。
私の脳裏に、大切な姪を傷付けられた本島さんの苦渋に満ちた顔が浮かぶ。
こんな人間の屑のような連中に、何の罪もない彼らは人生を滅茶苦茶にされ、
奈落の底へと突き落とされたのだ。そして将来的に自分の出自を知った梢ちゃんの
嘆き悲しみはどれ程のものだろう。それを考えただけで私の心は、込み上げる怒りと
悲しみで潰れそうだった。

(コイツら全員、女の敵だ。絶対、絶対許さない)

本当なら、今すぐ全員一網打尽に検挙して、裁判無しで極刑にしてやりたい位だけれど、今
の私には生憎そんな国家権力の威光は無い。

(コイツら全員に、必ずや天罰が下りますように・・・!)

煙草の煙が充満するざわついた店の片隅で、私は極々小さな声で
その言葉に祈りを込めて呟いた。


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益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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