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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★これにて完結です^^これからこの2人はどうやって交際に発展して、
結納→結婚→ジュニア誕生(※一色さん宅参照)に至るのか、考えるだけで
ドキドキします><;一色さん、素敵なリクエストを有り難うございました・・・!!












「そう言えばお前、」

…繁華街を抜けて人影も無くなった頃、榎木津さんがふいに立ち止まる。
あれから二人して沈黙を保っていたお陰で、唐突に話し掛けられた私は
ハッとして顔を上げた。

「…聞き忘れてたけど、首尾はどうだった?収穫はあったのかい」
「あっ、はい!勿論!あいつらの身元はしっかり押さえましたよ!
 あと写真!首謀者の5人の分は全て揃いました!」

私は胸ポケットに忍ばせた人数分の写真を手で押さえて所在を確認すると、
彼の背中でピンと胸を張って見せた。何はともあれ、あれだけのリスクを
犯しながらも、この収穫はまずまずの成功だったと思う。

「これを明日、本島さんにお渡しします」
「そうか。ハイリスクハイリターンだった訳だ」
「はい!」

明日、私は今回の調査の経緯をなるべく軽薄な風を装って皆に話そう。
何なら思いきり大袈裟に、あたかも武勇伝か冒険譚のように語っても良い。
そうすればきっと、本島さん達も私が勝手にしでかした事で心を痛めなくて済む筈。
あの善良な人達を、これ以上傷付けなくて済む。

そうと決めたら明日はとことんお調子者を装って、浮ついた小娘を演じ切ろう。
そう決めた私がその旨を肩越しに榎木津さんに告げると、彼は一言
「そうか。うん」とだけ呟いて、再び無言で歩き始める。

月明かりに照らされた静かな夜道。その静かで暖かな背に揺られて緊張感の
解けた私に、忘れかけていた疲労が心地よい眠気となってじわじわと迫り来る。

(ああ、何か凄く落ち着く…何だろう、この感じ…)

ウトウトと船を漕ぎながら、私は私を包み込むこの感覚の正体を探ろうとする。
今なら例え、何が襲い掛かって来ようと怖くない。自分は今、確かに守られていると云う
包み込まれるような安心感。この感覚を、私はどこかで既に知っている。

(あ、思い出した。あれは確か―――)


『ほら、涙を拭いて。パパが来たからもう大丈夫だよ』
『うん…っ!』


―――ああ、思い出した。
あれは遠い日の影法師。
肩越しに見た茜と橙の交錯。
頼もしくも優しい腕と広い背中。

ここに居ればもう大丈夫だと。
この人が傍に居れば何も恐ろしくはないと。
信じきっていた事。全てを委ねていた事。
その温もりの正体こそが―――。

(ああそうだ、お父さんと一緒なんだ…)

道端で転んで泣いた時、誰かにいじめられた時、子供心に悲しい出来事に遭遇して、
小さな胸を痛めた時、その腕は、その背は、いつだって自分だけに差し出されていた事。
その与えられる温もりに何の疑いもなく飛び込み、安心しきっていた事。

(あの時と同じだ。だから私、こんなに―――)

「随分と静かだな。今度こそ寝ちゃったか?」
「んぅ…起きてますよう…ねぇ、榎木津さぁん」

チラリとこちらを振り返る相手に、私は微睡みながらも目を擦って何とか言葉を紡ぐ。
眠さも手伝ってどこかふわふわした口調の私を背負い直した彼は、同じように
「んー?」と気の抜けた返事を返した。

「私、思ったんですけど」
「なに」
「なぁんか、榎木津さんてお父さんみたいですよね」
「……」

次の瞬間、パァン!と思い切りお尻を叩かれて、私の意識は一気に覚醒した。

「痛ぁいッ!ちょっ、何するんですか!私、ちゃんと起きてるじゃないですか!」
「うるさいよこの馬鹿!何を言い出すかと思えば!」
「あ!別にオジサン扱いしてる訳じゃないですよ!ただ、こうホッとしたって言うか、
 そしたら昔の記憶が蘇ったって言うか、」
「理由なんてどうでも良いッ!お前みたいな馬鹿で愚かで粗忽な娘の父親になるなんて、
 大金積まれたってお断りだ!」
「酷いッ!そこまで言う事無いじゃないですか!」
「煩いうるさいッ!黙れ!もう寝ろ!」
「何ですよ、寝るなって言ったり寝ろって言ったり!」

背中越しに言い争いながらふと目線を上げると、そこには見慣れた建物と見慣れた影が。

「やぁ先生、お帰りなさい!益田くんも無事で何より」

三階の窓から路上の私達に向かって呼び掛ける和寅さんに、私は軽く手を上げて見せた。
今回の件では彼にも散々迷惑と心配を掛けたのだから、事務所に着いたら真っ先に
謝らなくては。しかし、私のそんな殊勝な気持ちを打ち砕くように目の前の
榎木津さんが声を張り上げる。

「なぁにが“無事で何より”だ馬鹿寅!こんな奴は少し痛い目を見て懲りた方がいいんだ!」
「もうッ!何なんですよさっきから!最初と言ってる事が全然違うじゃないですか!
 和寅さん、聞いて下さいよ!榎木津さんたらね、」
「シーッ!二人共静かに!いま何時だと思ってるんですかい!さぁさ、喧嘩してないで
 上がった上がった!ご飯もお風呂も準備出来てますよ」
「おぉ、それは良い!この馬鹿娘に迷惑を掛けられたお陰で僕はお腹がぺこぺこだ!
 コイツの分まで僕が食べよう」
「ちょっ、駄目ですよそんなの!私だってお腹空いてるんですから!」
「何だと?!お前なんか自業自得じゃないか!」
「はいはい、そんな事もあろうかと沢山こしらえましたから…それより、ご近所迷惑だから
 早く上がって来て下さいよ。その間に私ゃ煮物を温め直しますから」

放っておけばいつまでも終わりそうにない私達の口喧嘩に呆れたように溜め息を付いて、
和寅さんは窓を閉めて奥へと引っ込んでしまう。ご飯と聞いた途端に急にお腹が空いた
現金な私達は、一時休戦して彼の待つ事務所に上がる事にした。

ビルジングの入り口で当たり前のように私を背負ったまま階段を上り始めた榎木津さんに
再び申し訳ない気持ちが湧いた私は、反省の意を込めて労いの言葉を探す。
思えば彼は随分と長い距離を、私を背負って此処まで歩いてくれたのだ。

「あの…榎木津さん、今夜は本当にすみませんでした…」
「全くだぞバカオロカ。お前のせいで散々走り回らされるし、台車代わりにされるし、
挙げ句の果てに変な事は言われるし」

彼の云う変な事とは、私が先程言った“お父さんみたい”と云う言葉の事だろう。
そこまで傷付くような事を言ったつもりは無いのだけれど(それならもっと前に
彼が言った“貧乳・痩せぎす・色気なし”の方が遥かに傷付いた)人にはそれぞれ
言われたくない事もある。

それに私を背負ったままの彼の背がじっとりと汗ばんでいるのをシャツ越しに感じて、
私は反論したいのをぐっと堪えた。いくら体力自慢の無敵の彼とは言え、
重りを背負ったままでの長距離移動はやはりしんどかったのかも知れない。

私が神妙に口を噤んだのを見届けた榎木津さんは、そっぽを向いたまま
極々小さな声で何やらぼそりと呟いた。



「…ふん。仮にお前が僕の娘だったら、僕は手も足も出せないじゃないか」



「…榎木津さん、いま何か言いました?」
「別に」
「えー?何かボソボソ言ってたじゃないですか。あ!また私の悪口でしょ!
ほんと勘弁して下さいよ!何度も謝ってるじゃないですか!」
「うるさいなぁ!静かにしないともう一度引っぱたくぞ!」
「止めて下さいよ!子供じゃないんだから!」
「馬鹿者!お前なんか子供も子供だ!人の気も知らないで!」
「何でですか!もう!」


もう!榎木津さんの“気”って何なんですか?!


私の問い掛けを完全に無視した榎木津さんは、わざとカンカンと大きな音を立てて
階段を駆け上がって行き、私のその質問には結局最後まで答えてはくれなかった。



(了)

 
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