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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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榎鳥布教団員の林檎です。榎鳥小説第2弾。

※現代パロです。
※保育園児・鳥ちゃん(5)と榎木津先生(22)のお話。
※当然ながら、エロは無し(笑)。

以上、ご了承いただける方は下↓からお入り下さい~。










夕暮れの教室には、僕の大切なものが全て詰まっていた。




『やさしい時間』



「鳥ちゃんのママ、まだお迎えに来ないね」

積み木でお城を作っていた小さな少年に、若い保育士の青年が後ろから声を掛けた。

「うん。僕のママ、お仕事忙しいから」

“鳥ちゃん”と呼ばれた少年は、黄色い三角を右手に持ったままそう答えた。

「教室でいつも最後の一人になっちゃって、寂しくないかい?」
「平気。だって榎木津先生が一緒だもん」

榎木津はこの保育園の新米保育士であり、目の前の少年の担任でもある。
幼い少年は、自分と担任の榎木津しか居ない教室の真ん中で、何がそんなに嬉しいのか、
機嫌良さそうにニコニコ笑った。ほわほわの前髪がヒヨコのように愛らしい。
名札には「たんぽぽ組 とりぐち もりひこ」と書かれていた。

「鳥ちゃんは強いなぁ」
そう言いながら榎木津が鳥口少年の傍らにしゃがみ込むと
「…それにね、今なら榎木津先生を独り占めに出来るから、」
だから嬉しいの。そう言ってトン、と積み木を乗せた。今度は赤い円柱。

「僕と一緒だと嬉しいの?」
「うん!だって僕、榎木津先生だぁい好きだもん」
そう言って甘えたように体を預けてくる鳥口少年の頭を
クシャクシャ撫でて、今度は榎木津も一緒に笑った。

鳥口少年の両親は共働きで、特に繁忙期の時期は母親の仕事が終わるのも遅く、
いつも彼だけが教室に一人ぽつんと残されてしまい、一人また一人と母親に
手を引かれて帰宅する級友の背中をいつも部屋の中から見送っていた。

それでも彼はそれを寂しいと思った事は一度もなかった。
何故なら、教室には少年の大好きな榎木津先生が居たから。

この保育園には男性保育士は2人いて、一人は「ひまわり組」の「司先生」で、
もう一人が今年大学の保育科を卒業して新任した榎木津だった。

子供たちに榎木津の人気は絶大で、特に女の子達は背が高くハンサムな榎木津を
「王子様みたい」と言って取り囲み、一緒にお絵かきやごっこ遊びに夢中になり
(勿論、彼は王子様の役である)、やんちゃな男の子達もノリの良い榎木津がお気に入りで、
一緒に戦いごっこに興じたり腕にぶら下がったりととにかく彼の腕も膝も常に子供たちで
満員御礼だったから、昼間は2人きりで遊べる時間など無かった。

だからこそ鳥口少年にとって、全員が帰宅してからの榎木津と2人きりになれる
この時間は、1日の内で一番のお気に入りだったのだ。

昼間はわんぱくな鳥口少年だが、2人きりの時は皆の前でしてもらうには
ちょっと恥ずかしい「お膝だっこ」をねだってお気に入りの絵本を読んで貰ったり、
両腕を持って体をグルグル回す「飛行機ぶんぶん」をしてもらったりと、
とにかく放課後の榎木津先生は鳥口少年だけのものだった。

今も、昼間は泣き虫の「龍一くん」が独り占めしている先生の
お膝に座って今日一日の出来事を報告している。

「それでね、修太郎くんにオモチャ取られて巽くんが
泣いちゃったからね、僕が“順番こだよ”って教えてあげたの」
「そうかー。鳥ちゃんは偉いねぇ」少年の頭をくしゃくしゃ撫でながら、
でも修ちゃんにも困ったもんだねぇ、そう言いながら榎木津は苦笑した。

「あとね、文蔵くんは大人になったら敦子ちゃんと結婚したいんだって。
でも敦子ちゃんは、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するからダぁメ!って言ったの」
そう言って笑う少年の言葉に、そうかぁ文蔵はフラれちゃったかぁ、と
榎木津も釣られて一緒になってクスクス笑った。

おませな子供達の間では只今「結婚ブーム」である。

「・・・鳥ちゃんは誰か好きな子は居るのかい?」
榎木津はふと気になって聞いてみた。

「好きな子ー?」
「そう。誰か、結婚しちゃいたいくらい好きな子」
いるのかな?そう問い掛けると、少しもじもじしながら少年は答えた。

「・・・いるよ」
「へぇ!鳥ちゃんも隅に置けないなぁ」
誰?誰?教えて!と榎木津はわざとオーバーに驚いてみせる。

「えー。恥ずかしいなぁ」
「先生にだけ教えてよ。誰にも言わないから」
教えてくれなきゃ擽っちゃおうかな、そう言ってキュ、と逃げられないように
お腹に手を回すとキャアキャア言いながら少年は身を捩った。

「じゃあ先生、お耳貸して」
そう言って鳥口少年は顔を上げた。
「えー?二人しか居ないのに」
「いいの。だって秘密のお話だもん」

昼間は禁止されている“内緒話”を2人だけの空間ですると言う。
さて、どんなお相手の名前が飛び出すやら。そう思って言われるがままに
顔を傾けてやれば、その耳を両手で包むようにして少年はこう囁いた。

「・・・僕、大きくなったら榎木津先生と結婚したいな」

言い終わると、少年は照れ隠しなのか体をぐにゃりと曲げ、
榎木津の水色のエプロンに顔を埋めてしまった。

「鳥ちゃんは僕の事が好きなのかい?」
その問いに、声を出さずにコクン、と頷いた少年の耳は少し桃色に染まっていた。

「嬉しいなぁ。先生も鳥ちゃんの事、好きだよ」
そう言ってよしよしと頭を撫でてやると、その言葉に少年はパッと顔を上げた

「・・・じゃあ先生、僕と結婚してくれる?」

澄んだ両の瞳は榎木津の答えを今か今かと待っている。
この子供たちの曇りない瞳が好きで、榎木津は保育士の仕事を選んだ。

「・・・いいよ。鳥ちゃん、先生と結婚しよう」
「本当?!」

やったー!!と太陽のような笑顔で飛び跳ねた少年は、それでもはたと動きを止める。

「どうしたんだい?」
「でもなぁ・・・美由紀ちゃんと宏美ちゃんも榎木津先生と結婚するって言ってたしなぁ」
あとは実菜ちゃんでしょ、秀美ちゃんでしょ、と小さな手を指折り数えて何事か
考え込んでいる少年がいじらしくて可愛くて、榎木津はある提案をした。

「じゃあ、こうしよう。鳥ちゃんが大人になってもまだ先生の事が好きだったら、
そしたら本当に結婚しようよ」できるかな?と笑って問い掛けてやると、
「大丈夫!だって僕、先生のこと、ずーっとずーっと大好きだもん!!」
満点の笑みで少年は元気よく答えてみせた。

「じゃあ、先生もお嫁さんを貰ったりしちゃダメだからね?先生は僕と結婚するんだから」
「うん。約束する。それじゃ、指きりげんまんしよう」

ゆーびきーり げんまん、 うそつーいたーら 
  はーりせーんぼん のーます、ゆーびきった!

「・・・ねぇ先生」
「なぁに、鳥ちゃん」
「僕、早く大人になるからね。それで、すぐ先生と結婚するからね」
「・・・そんなに急がなくても良いよ。先生はずっと此処にいて、鳥ちゃんを待っているから」

嬉しい事も、楽しい事も、悲しい事も全て織り交ぜて。
素敵な大人になって迎えに来てくれるのを、ずっとずっと此処で待っているから。

・・・だから、君はゆっくり大人になっておいで。

膝から伝わる温もりと、エプロン越しに伝わる鼓動の音。
ーーー少年にとって、この優しい時間こそが世界の総てだった。


「守彦、遅くなってゴメンね!」
「あ、ママー!」


それじゃあ、またね。さよならしたら、また明日。
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益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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