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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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これにて完結。さて、二人の運命は・・・

※事 後 表 現 ありです。苦手な方はご注意下さい。










そして現在、少年は大人になり、彼の“大好きな先生”の腕の中にいる。


うふふ、と柔らかい笑みを漏らしながら頬を摘まれて目が覚めた。
「・・・気を失うほど悦かったかい?」
ねぇ、鳥ちゃん。そう意地悪くからかってやると、
「少し疲れて寝ちゃっただけですよう!」と間髪入れずに返された。

なーんだ、起きてるんじゃないか。
裸の胸をぴたりと密着させて、顔を覗き込んでやる。

「なんか寝ながら笑ってたけど、良い夢でも見てたのかい?」
「・・・うん。小さい頃の夢ですよ」
僕がまだ子供で、あなたは僕の先生で。
小さい僕がありったけの勇気で告げた、幼いプロポーズ。あなたがくれた約束。

「あの頃の先生は優しかったなぁ」
「なんだい、その言い種は。今だって十分優しいだろう」
そう言ってチュ、と唇を重ねて来た榎木津に鳥口はクスクス笑う。
裸の腕と洗濯されたシーツの感触が滑らかで心地よい。

「鳥ちゃんこそ、あの頃は本当に可愛かったなぁ。
しょっちゅう“先生大好きー!!”って言いながら後ろをついて来てさぁ」

あの可愛いヒヨコちゃんが、今じゃこんな大きいニワトリになっちゃって。
そう言いながら鳥口の逆立てた前髪をぐしゃぐしゃ掻き回した。
「もう!止めて下さいよぅ!」
「わはは、頭が鳥の巣みたいだぞ鳥ちゃん。
今日から君の名前はトリノスだ!外人みたいで格好いいだろう」
「うへぇ、勘弁して下さいよぅ」

暫くそうやって互いにじゃれ合っていたが、鳥口が途中で思い出したように動きを止める。
「外国と言えば・・・益田くんが夏に一度、ニューヨークから戻ってくるみたいですよ」
保育園で鳥口と同じクラスだった益田は、幼い頃から習っていたピアノの腕を生かし、
ピアニストとして現在はニューヨークに活動の拠点を移していた。

「あの“泣き虫リュウちゃん”がねぇ・・・」
そう感慨深げに呟く榎木津の顔は、あの頃と変わらぬ“先生の顔”だ。
因みに青木は熱烈な猛アタックの末に見事敦子をモノにし、学生結婚。
今では2人の子供に恵まれ家族4人で都内で幸せに暮らしている。
暴れん坊だった修ちゃんはその剛腕を生かして警察官になり、
あの引っ込み思案の巽くんがノンフィクション作家になったと聞くから驚きだ。

そして鳥口はあの約束の夜から十数年、カメラマンを志して
専門学校を卒業した後、園児達の卒園写真を撮る為に訪れた保育園で榎木津と再会する。

『お久しぶりです、榎木津先生』
『・・・待ってたよ。鳥ちゃん』

『・・・あの約束、覚えていてくれましたか』
『有言実行は君の良い所だね』

「本当に僕との約束を果たしに来てくれるとはね」
「意外でした?」
「いやぁ、君が約束を破るような子じゃないって、僕は知っていたから」
僕の教育のお陰だね、そう言って笑った彼の目尻には若干皺が
目立つようになったが、その整った顔は四十に近いとは思えぬほど
若々しく、二十歳を少し過ぎたばかりの鳥口と並んでも違和感は無かった。

鳥口が榎木津のマンションで共に暮らすようになって、もうすぐ一年が経つ。

「・・・そう言ってくれるのは嬉しいんですけどね、先生」
鳥口は以前から疑問に思っていた事を口にした。

「ーーーなんで僕が“下”なんですか」

えー?何を今更、そう言いながら榎木津が体を起こす。

「君が自分で言ったんじゃないか。
“僕と結婚するんだから先生はお嫁さんを貰っちゃダメだ”って」
つまり君が僕のお嫁さんになるって事だろう?そう言って煙草に火を付けた榎木津に、
よく覚えてますねぇそんな細かい所まで、と鳥口は感心する。

「覚えているとも。大切な事は全て覚えているよ。
・・・例えば、君がブランコの所でお漏らしをした事とか、」
「それのどこが大事な事なんですか!もう時効ですよぅ!」

先生は変な所で記憶力がいいんだから、そう言って枕に顔を埋めた
鳥口の耳はほんのり桃色に染まっている。恥ずかしい時に何かに
顔を埋める癖と耳から赤くなる所は、昔から変わっていない。

「僕は大切にしてあげてるつもりだけどなぁ。・・・不満かい?」
「別に・・・不満じゃない、ですけどォ」
「だろう?なんせ気を失うほど気持ち良かったみたいだしねぇ」
「だーかーら!疲れてただけですってば!」
もう、先生のバカ!そう言って枕で反撃するもひょいと避けられてしまう。
榎木津の運動神経も、あの頃から少しも衰えてはいないのだから驚異的だ。

「“バカ”なんて汚い言葉を使っちゃいけないなぁ。僕はそんな風に教えた覚えは無いよ。
・・・それに二人の時は何て呼ぶように教えたっけ?」
急に先生らしい口調に戻って両手で頬を挟んで来た榎木津に、鳥口はグッと喉を鳴らす。
幼い頃に見上げていた整った彼の顔が、今はこんなにも近い。

「言ってごらん?守彦」
「不満じゃないです。・・・好きです、礼二郎さん」

大変よく出来ました、そう言って優しい彼の口唇が“ご褒美”として落とされる。
二人の時間はそうしてゆっくり穏やかに流れて行く。

変わったものは、合わせる目線の高さ、お互いの呼び名、関係性。
変わらぬものは、太陽のような笑顔、慈しむ手の平。


・・・そして、二人の間に流れる、優しい時間。




(終)
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