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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★キリ番30.000HITのリクエスト小説は久々の鳥益です><!!

「優しいおと。」の善哉あんこ様より頂きました「飲食するシーンのある益田の話」。
CPは特に指定がなかった為、現在林檎の脳内ブームである鳥口くんをパートナーに
選ばせて頂きました。拙い話ではありますが、少しでもお楽しみ頂けたら幸いです^^

あんこさん、大変お待たせしまくりで申し訳ありませんでした・・・!!(ジャンピング土下座






不完全で不格好だけど
キラキラしたもの。

君はあちら側から。
僕はこちら側から。

ゆらゆら揺れて、引き寄せ合って、繋がり合って。

ねぇ、こんな気持ちをどう伝えたら良いの?



【ガラス玉の恋】



「あれ?益田くんじゃない。どうしたの、こんな所で」

背後から聞き慣れた声で名前を呼ばれて、益田はハッとして顔を上げた。
一体、自分はいつまで此処でこうしていたのだろう。

「あ、鳥口くん。君こそ取材の帰り?」

顔に掛かる前髪を掻き上げ、少し照れ臭そうにこちらを見上げる相手の隣に
鳥口はしゃがみ込んだ。

「僕はこいつの新しい部品を取りに、ちょっとそこまで」

そう言った鳥口の手には彼の宝物である大きなカメラ。
益田も前に一度だけ触らせて貰った事がある。

「鳥口くんが自分で直すの?」
「壊れた訳じゃないんだけどね。そろそろ古い部品を取り替えようと思って。
修理屋に出すと、却って高く付いちゃうから」
「へぇ!凄いねぇ。鳥口くん、技術屋さんみたい」

感心したように自分を見上げる益田に、鳥口は少しくすぐったい気分になりながら、
しかし彼の手の中にある小さな箱の存在に気を惹かれ、その中身が何であるのかを尋ねた。

「あーぁ、なら僕も鳥口くんに直して貰えば良かったなぁ」

益田はそう言って箱の蓋をぱかりと開けた。中に入っていた物は、
小さな三角形の―――

「えーと、何だっけ、それ。確か…ピアノ弾く時に使う…」
「メトロノームだよ。上京した時に家から持って来たんだ。
針が動かなくなっちゃったから、ここに修理に出してたんだよね」

今更ながら気付いたのだが、益田がしゃがんでいたのは楽器屋の前だった。
普段の自分とは無縁の店なので、鳥口はいつも素通りをしていたのだが―――。

「直ったって連絡が入ったから、取りに来たらこれが目に入って」

益田が指差した先には半紙に朱墨で『大特価』と書かれた小さな本棚と、
その上に並べられた複数の冊子。表紙には横文字で何やら書いてあって。
いくら音楽に無縁な鳥口であっても、それが何であるかはすぐに分かった。

「楽譜?」
「そう。安いから何冊かまとめて買っちゃおうかと思って、
それでずっと、どれを買おうか迷ってたんだけど」

おかしいでしょ、肝心のピアノも無いのに。
でも、こういうのって何となく見てるだけで楽しいんだよね。

そう言って微笑う益田の顔に郷愁めいたものを感じて、
そこで鳥口は漸く益田が戦前まで鍵盤を習っていた事を思い出したのだった。

「メトロノームに合わせて、頭の中でピアノを弾くんだね」
「そう。変でしょ?」
「いやぁ、別に変じゃないよ」

そうかなぁ、そう言いながら益田は横に付いた小さなゼンマイを回して
メトロノームの針を動かす。針が左右に揺れる度にチクタクと可愛らしい音が響き、
それを大事そうに見つめる益田の横顔がとても満ち足りていたものだから、
鳥口は思わず手にしていたカメラのシャッターを切った。

パチリ。

「わっ!なに?」
「へへ。宝物が直ってご満悦の益田くん、一枚頂きました」
「もう!ポートレィトなんて撮られ慣れてないのに」

嫌だなぁ。絶対に変な顔してたでしょ、と顔をしかめる益田の視線を受け流しながら
楽譜は決まった?と水を向けてやると隣の相手は小さく溜め息を吐く。

「本当はシューベルトとチャイコフスキーのも欲しい所なんだけどねぇ…」

これの修理代が思ったより掛かっちゃったから、3冊は無理だね。
そう言いながら益田が手に取った1冊の楽譜の表紙に目をやった鳥口は、
すこぶる真面目な声音で一言、



「チョピン」


―――そう呟いた。途端に益田が吹き出す。


「あはははッ!もう!鳥口くんたら!」
「え?!何?僕、いま何か変な事言った?」
「言ったよ!あはは、もう、急に真面目な顔で何言うかと思ったら…」

急に腹を抱えて笑い出した益田に、鳥口の方こそ訳が分からない。
そんな鳥口を置き去りにしたまま益田はひとしきり笑い終えると、

「これはねぇ…“CHOPIN”て書いて、ショパンて読むんだよ。ショ・パ・ン」
「えぇー?何で?CHOPINと書いてあったら普通はチョピンと読むでしょう。
僕がいくら音楽に疎いからって、ローマ字読み位は分かるよ」
「それはそうだけど…でも本当に、これはショパンて読むんだよ。
“時の雨”って書いて“しぐれ”と読むのと同じ事なんじゃないの」

その説明にも何だか納得の行かない顔をしている鳥口を一人残し、
笑い過ぎて涙目になった益田は、ああもうお腹痛いよ、と言いながらゆっくりと立ち上がる。

「でもまぁ、チョピンで通じる国もあるみたいだけどね」
「なぁんだ。じゃあ、あながち間違いって訳でもないんじゃない」
「でもさぁ、同じ人間でもショパンとチョピンじゃ大違いだよねぇ。
 チョピンだってさ。チョピン。ふふふ」

どうやら“チョピン”と云う語感がツボだったらしく、いつまでも肩を震わせて
クスクス笑っている益田に、せっかく横文字が読める所を披露しようとした
鳥口は格好が付かなくなって、つい

「まぁ、益田とカマオロカくらいは違うね」

…と、余計な一言を言って相手をむくれさせた。



「益田くんてさ、それに書いてある曲、全部弾けるの」
「まぁねぇ…上手いかどうかは別としてだけど」
「そりゃあ凄い。僕なんかここに何が書いてあるのかすら分からないのに」
「畑が違うんだから当然だって。僕だってカメラの説明書なんか見せられても
 ちんぷんかんぷんだもの」

無事に“チョピン”の楽譜の精算を済ませた益田が鳥口を伴って店を出ようとした時、
ふいに鳥口に腕を引かれた。

「何?鳥口くん、どうしたの?」
「…じゃあ、あれで弾いて見せてよ。聴いてみたい」

鳥口の指差した店の中央には、壁に沿う形で置かれた古びた
一台のアップライトピアノがあった。それにすたすたと歩み寄り
蓋を開けようとする鳥口を、益田はやんわりと制止する。

「勝手に触っちゃまずいよ。これ、売り物なんじゃないの」
「いやぁ、そうは見えないなぁ。大方、こういうのは客寄せで飾ってあるんだって。
値札も貼ってないしさ。第一、こんなボロ売りつけて高い金を取ったら、それこそ詐欺だよ」
「しーッ!馬鹿!聞こえるよ!」

益田は慌てて鳥口の口を塞ごうとするが、鳥口は悪びれた様子もなく店の奥に居た店主に
「おっちゃん!これ、弾いてもいいでしょ?」と声を掛けた。どんな相手にも初対面で
気さくに声を掛けてしまえる所が、益田が羨ましいと思う鳥口の長所だ。

「いいとも。但し上手いこと弾いてくれよ。良い客寄せになるから」

年配の店主のその言葉に、自分の予想の当たった鳥口は満面の笑みで大きく頷き、
その屈託のない笑顔に益田も釣られるように小さく笑って見せた。

「…じゃあ、何から弾こうかな」

買ったばかりの楽譜をパラパラと捲りながら思案する益田に、
鳥口は「じゃあ、これ」と言って後半に載っていたある曲を指さした。

「この曲、好きなの?」
「いやぁ、知らないけど、何となくオタマジャクシがいっぱいで難しそうだから」
「あはは、さっきのチョピンの仕返しって訳か。いいよ。じゃあこれにしよう」

久々に弾くから指が動くかなぁ、そう言ってクスクス笑いながら益田は
楽譜をセットすると、ピアニストよろしく少し気取ったように鳥口に向けて礼をし、
椅子に掛けると同時に白と黒の上に己の十指を滑らせた。

「うわ…」
「へぇ」

益田が鍵盤を叩き始めると同時に鳥口は息を飲み、奥に居た白髪の店主は目を丸くした。

―――上手い。

浮かんだ単語はとても陳腐で、今の益田の演奏を称えるには
不十分である事は重々承知だったが、呆気に取られた鳥口の頭には
それ以上の気の利いた言葉は浮かばなかった。

「大したもんだ。アンタの友達は音楽家かね」
「いや、その…」

いつの間にやら隣に移動してきた店主に耳元でそう囁かれても、
鳥口は曖昧に首を振るだけだった。



(2) へ


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自己紹介:
益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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