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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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第2話。
無邪気な子供時代の突然の幕引き。
RPGみたいな書き方になってしまいました。






そんなある日の事だった。ママが僕にこう言った。

「今日はピアノのお稽古の後、パパのお迎えが少し遅くなるから、
先生に言ってお教室で待たせて頂きなさいね」

写真館が閉まるギリギリの時間に、お見合い用の写真を撮りに一人お客さんが来るらしい。
ピアノ教室の先生は太った優しい女の先生で、大人のお迎えを待つ子供達が、部屋で
今日習った曲の復習をしたり先生のお話を聴いたりして、終わった後も教室に
残っている事が多かったから、今日は僕もそうしようと思った。

けれど。

「今日はレッスンが終わったら、先生はすぐに出掛けないといけないの」

先生はお稽古が始まると同時に僕達にそう告げた。
僕はそれを聞いて何も言えなくなってしまった。
どうしよう、この辺は住宅地だから公園とかも無い。どこでパパを待ってればいいんだろう。
いっそ一人で歩いて帰っちゃおうかな、と思ったけれど、出掛ける時にママに

「港の周りは色々な人が出入りして危ないから、絶対に一人で帰って来ちゃ駄目よ。
パパが迎えに来るまで、ちゃんと待っているのよ」と言われてしまっているので、それも出来ない。

悶々としたままピアノを弾いていたら同じ所で何度もつっかえて、先生に
「龍一くん大丈夫?今日は調子が悪いのかしら?」と心配されてしまった。

お稽古が終わってから外を見ると、他の子達は今日に限って全員門の所に
お迎えの車が来ていて「先生、さようなら」と一斉に帰ってしまった。
僕がグズグズしていると先生が「龍一くん、忘れ物ない?先生もう鍵を締めるわよ」と
言ってきたので、慌ててカバンに楽譜を詰め込んで外に飛び出した。

表に出ると先生が「龍一くんのお父様、まだいらしてないけど大丈夫?
先生、一緒に待っていましょうか?」って腕時計をチラチラ気にしながら聞いて来た。

僕は一瞬迷ったけど「大丈夫。すぐに来るって言ってたから」と、とっさに嘘を吐いた。
嘘を吐くのは良くないけれど、先生が僕のせいでお出掛けするのが遅れる方が、
もっと良くないと思ったから。 先生はそれを聞いて安心したのか
「それじゃ龍一くん、また来週ね」と言って反対の方に走って行ってしまって
僕は本格的に一人になった。

最初はカバンから楽譜を取り出して読んだり、人のお家の庭の花を眺めたりして
時間を潰していたけれど、待てど暮らせどパパは来なかった。
僕は時計を持っていないから時間は分からないけれど、もう随分長い間待っている気がする。

そして僕は、やっぱり一人で帰ろうと決めた。

もう小学生だし、家までの道もちゃんと分かってる。
なかなか迎えに来てくれないパパが悪いんだし、ママにちゃんと理由を話せば
きっと叱られないだろうと思った。

そう決心したら急にワクワクした。
海沿いの街を一人で歩くなんて、ちょっとした大冒険だ。
僕はなんだか自分が大人になった気がして長い長い下り坂を全速力で走った。

お家には真っ直ぐ歩けば一時間しない内に着いてしまう。
だから僕は、少し遠回りしてパパといつも寄り道する港の方に行ってみる事にした。



港には船が何艘か止まっていた。外国に行く船が出る時は、
船の上の人と港で見送る人達が色の付いたテープを投げていて凄く綺麗。
僕も一緒になって手を振ると、たまに手を振り返してくれる人がいて嬉しかった。
今日もそれをやりたかったけど、今は外国行きの船が出る時間じゃないみたい。

僕はその時、ふと港の端にある倉庫の方が気になった。どうしてだか分からないけれど、
まるで何かに呼ばれたように足が倉庫の方に向かって行ったんだ。

勝手に入ったら叱られるかな、と思ったけれど、中には誰も居なかった。
倉庫の中は薄暗くて埃っぽくて、それでいてひんやりしていて、奥からお化けでも
出て来そうで僕は少し怖くなった。出よう、そう思った瞬間ガタン!と壁の方で音がして、
僕は心臓が飛び出すほど驚いた。

よく見ると男の人が壁に背中を付けて座り込んでいる。
勝手に入り込んだ僕は叱られると思って一瞬緊張したけれど、なんだか
男の人の様子が変な事に気付いて目を凝らした。

男の人は何だか苦しそうに息をして、少し震えてるみたいだった。

(病気なのかな・・・?)

もしかしたら、病気か怪我をして動けないのかも知れない。
僕は男の人に恐る恐る近づいて行った。

男の人はやっぱりぐったりしていて、よく見るとパパくらいの年の外人さんだった。
僕は神奈川の海沿い育ちだから外国人の人は見慣れてるんだ。

話してる言葉は分からないけれど、目の色と髪の色が違うだけで後は僕達と何も変わらない、
怖い人じゃないよってパパも言ってたし、困っている人がいたら助けてあげなさいって
ママがいつも言ってるから、僕は思い切って声を掛けてみた。

「ハローハロー、大丈夫?」

僕が唯一知っている外国の言葉で話し掛けてみる。僕の声におじさんはゆっくり顔を上げた。

「どこか痛いの?僕、誰か呼んで来てあげようか?」

おじさんは何も答えなかった。やっぱり日本語が分からないのかな?
どうしよう、と僕が逡巡していると、おじさんが一言、

「Come on, Kitty」

と言った。今度は僕が困ってしまった。何を言ってるんだろう。

僕が固まってしまったのを見て、おじさんはもう一度「カモン」と言って
“おいでおいで”の形で手を振った。こっちに来てって事?

僕は更に近付いて、おじさんの目の前にしゃがみ込んだ。

「ハロー、大丈夫?」

おじさんは髭の生えた口元をニコリと動かして「ダイジョウブ」と少し変な発音で言った。
日本語が分かるんだ。僕は少し安心して、誰か大人の人を呼んでくると伝えようとした。


・・・次の瞬間、おじさんは僕の腕を掴み、強い力で僕の体は壁に押しつけられた。


(3) へ

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