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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★10.000HITと22.222HITを踏んで下さった「F級あくしょん」のシュシュさんの
キリ番リクエスト、ようやく仕上がりました~!シュシュさん、大変お待たせ致しました!!

今回のシュシュさんからのリク内容が、
・郷青の幸せな話
・ラブラブで甘々な2人
・ロマンチックな話
・クサい台詞を言う郡治
・青木が幸せで満たされる話

・・・以上でしたので、全部クリア出来るように頑張りました><;ラブラブってイイよね!
このサイト史上、一番長いお話になりました。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


ではでは、以下からご覧下さい~。








それでも僕は、君を選ばずにはいられないだろう。



『ハピネス』





「…ごめん」

そう言って、青木が教本当に申し訳なさそうに首を竦めたので、
郷嶋は言いかけていた文句を飲み込まざるをえなかった。

「…すぐに帰れると思うから」
「そんなの事件でも起きたらどうなるか分かんねぇだろ。
 出来ない約束なら最初からするんじゃねぇよ」
「それはそうだけど…でも、なるべく早く帰るようにするよ」
「分かった分かった。せいぜい期待しないで待ってるよ」
「…」

そう言って郷嶋は青木から顔を背けるように横を向くと、胸ポケットから
ジッポを取り出しおもむろに煙草に火を付けた。ゆらゆらと漂う紫煙を
目で追うともなしに見つめていた青木だが、お互いの間に流れる
沈黙に耐え切れず、郷嶋の前に回り込んで再び言葉を繋ぐ。

「ねぇ…怒ってる?」
「怒ってねぇって言ってるだろ。何度も同じ事言わせるなよ」
「だって、急に黙っちゃうから」
「…お前なぁ、」

ハァ、と溜め息と共に吐き出された煙は空中に霧散し、まだ一口しか
吸われていない煙草はおざなりに灰皿に押し付けられ、真ん中からぽきりと折れた。

「そんな事でいちいち腹立ててたらこんな仕事が務まるか。
 俺はそんなに了見の狭い男じゃねえぞ」
「そうだけど…」
「ただな、」

ちょいちょい、と人差し指を動かして青木にもう少し近付くように促すと、
郷嶋は彼の丸みを帯びた顎を掴み、そっと口唇を吸った。そんな郷嶋の行為を
ある程度予期していた青木は、彼を迎え入れるべく薄く口唇を開くが、予想に反して
郷嶋の舌は侵入して来ず、代わりに前歯をちろりと舐められた。

「俺は別に怒っちゃいねえよ。でもな、」


拗ねる位したっていいだろう、そう耳元で囁かれた言葉の意外さと、
その本当にいじけたようなわざとらしい声音に、青木は思わずプッと吹き出してしまった。

「ごめんごめん。頑張ってなるべく早く帰るから。ね?」
「へいへい」





青木が急に改まった顔で「ちょっと話があるんだけど」と持ち掛けて来たのは、
郷嶋が風呂から上がってさて一息、とテーブルの酒に手を伸ばしたのとほぼ同時だった。

青木がその日の終わりギリギリになって話し出す事は大抵ロクなものでは無い事を、
郷嶋は既に承知済みである。親に悪戯を白状する子供や教師に叱られる前の学生が
相手の顔色を伺うように、なるべく相手の機嫌の良さそうな時、それでいて万が一
相手の機嫌を損ねて怒りを買ったとしても、それが最も短時間で済むようにと
青木は敢えて“寝しな”を選んで話を持ってくるのである。さて、今回はどんな面倒な話だと
郷嶋は手にしたグラスをテーブルに戻すと、溜め息混じりに一言

「金なら貸さねぇぞ」

と言った。青木はそんな郷嶋の言葉に「違うよ」と苦笑いした。
一緒に暮らしてはいるものの、財布は別々の2人である。

「じゃあ、あれか。また何かやらかして別の管轄に飛ばされたのか。
 お前なぁ、そろそろ大概にしねぇと懲戒くらう日も近いぞ」
「もう、違うよ。そうじゃないったら」
「じゃあ何だよ」

酒の代わりに煙草に手を伸ばし一口くゆらせると、青木も「僕にも頂戴」と手を伸ばして来た。
珍しい事もあるものだと思いつつも郷嶋は箱から一本取り出して口にくわえさせると、
顔を近付けて火を移してやる。


「…で?」
「あ…うん」

青木は煙草の灰を灰皿に落とそうとするも、吸い始めたばかりで
落ちるには長さが至らず手持ち無沙汰のような手つきで再び口にくわえ直すと、

「…郡治ってさ、子供とか平気?」

と、藪から棒に一言聞いた。言われた郷嶋は怪訝な顔をして

「日本語は正しく使え。急にそんな質問されて、俺は一体どう答えりゃいいんだ。
第一、子供のどこを指して俺に平気かどうか聞いてるんだよ」

と、至極尤もな返答をした。だよね、と青木は歯切れ悪く返しながら、
今度こそ灰皿に少しばかりの灰を落とした。

「あのさ、実は…」
「お前まさか、昔付き合ってた女との間に子供がいるとか言うんじゃねぇだろうな。
 あれか、物心ついたガキが“パパに会いたい”とか言ってるのか。
  だとしたらお前、会ってやるのは親としての義務だぞ」
「もう!そんなんじゃ無いったら!ちゃんと話すから最後まで聞いて!」

―――青木の持って来た「ろくでもない話」の全貌はこうである。

青木の兄夫婦が生前世話になっていた人物が亡くなった為、2人揃って遠方まで
葬式に行かねばならず、明日から一泊、兄夫婦の5才になる一人娘を預かる事に
なってしまった事。青木の実家は仙台で、他の妹や弟も地方に住んでいる為、
青木本人に白羽の矢が立った事。明日は青木は勤務日である事、青木自身も
一応友人らを当たったのだが、あいにく全員予定があって無理だった事。
そして明日はたまたま郷嶋が公休だった事。なので郷嶋に、自分に代わって
姪の面倒を見てもらいたい事などを、順を追って丁寧に説明した。

「…で、お前は俺に明日1日そのガキの子守をしろと」
「…そう。他に頼める人居ないし、郡治なら安心て云うか…」

視線を左右に泳がせながら、青木は再び問い掛ける。

「郡治はさ、子供とか…好き?」
「嫌いだね」
「だよねぇ…」

郷嶋の即答に青木はガックリと肩を落とした。

郷嶋は元より子供や動物など「うるさい」「汚す」「手間の掛かる」ものが大嫌いな事など、
青木は重々承知済みだからである。公共の場で子供が騒いでいようものなら、持ち前の
三白眼を吊り上げて舌打ちをするし、道端で見つけた捨て犬を、青木が何気なく
「可愛いね」と言った時などは「汚い、臭い、毛が抜ける。飼いたいとか下らない事
言うんじゃねぇぞ」と一蹴されてしまった程だ。

郷嶋は決して薄情な人間ではない。それは青木自身が一番良く知っている事だ。
青木に向けられる郷嶋の情愛や労りは本物である。ただ、彼はシビアで合理主義で
口が悪く態度がデカい(これは事実であり決して悪口ではないと青木は思っている)と
言うだけで、別に彼自身は悪い人間では無いのだ。ただ、表現の仕方が不器用なので
損をしているだけである。痘痕も笑窪と笑われるかも知れないが、これで話してみれば
案外と優しい所も可愛い所もある。でなければ一緒になど暮らせやしない。

だから青木は兄から今回の話を持ちかけられた時、なるべく郷嶋の負担にならぬようにと
八方手を尽くしたのだ。だが、仏事だから当然なのだが、急な話だった事もあり
青木が当たった友人知人は全員、運悪く体が空いていなかった。鳥口も敦子も月末は
自社の締切の関係で忙しく、神田の探偵社では益田は夜っぴての張り込みがあり、
和寅あたりは喜んで面倒を見てくれそうだが生憎今は実家に帰っており、あの破天荒な
榎木津一人に幼い子供を任せる勇気は青木には無かった。

ならば中禅寺だと思ったのだが、明日は夫婦で浅草まで芝居を観に行くのだと言う。
先輩である木場も勤務日だし(仮に休みだとしても、あの男寡婦に蛆が涌いたような部屋に
姪を連れて行くのは流石に可哀相である)関口は家に居るかも知れないが、青木はあの
陰気な小説家とは警察官としての立場を越えて会話らしい会話をした事が無かった。
ましてや彼の妻とは面識はあれど直接話した事も無い。そんな夫妻に姪っ子の子守を
頼むのは流石に気が引けた。しかも本庁のある桜田門から疲れた足で中野まで
引き取りに行くのも、恐らくその時間は眠っているであろう姪を起こさぬように
抱いて帰るのも、もう想像しただけで面倒である。

やはりここは郷嶋に任せるのが適任だろう――――これが青木の到達した結論である。

「…ダメかな?」
「駄目も何も、もう兄貴にはOKしちまったんだろ」
「うん…ごめんね、急な話で」
「別にお前のせいじゃねぇだろ」
「そうだけど…ごめん。怒ってる?」
「怒ってねえよ。だから謝らなくていい」
「うん…ごめんね」
「だから謝らなくていいって」


―――これが、かれこれ20分前の2人の会話である。





郷嶋とて青木のたっての頼みとあらば聞き入れてやりたい気持ちは勿論ある。
これが例えば一月以上も前から決まっていた話を、こんな切羽詰まった状況で
打ち明けたのなら文句の一つ二つ言う所だが、人がいつ死ぬかなど誰にも予測は
立てられぬ。こればかりは青木の兄夫婦(郷嶋は青木の兄と一度だけ会った事がある)とて
寝耳に水の話だったろうし、青木にとっても急遽舞い込んだ話に狼狽した事だろう。
明日、自分は特に外出する予定も無いし、家で書類の整理でもしようかと
思っていた程度なので無下に断る理由も無い。無いのだが―――。


「俺、子供の面倒なんて見た事無ぇから、どうやっていいのか分かんねぇぞ」

これが郷嶋の一番言いたい事である。一応は自分達の仲を大筋で認めてくれている
青木の兄や、その兄に子供を託されて困っている青木の為に一肌脱ぐ事は郷嶋とて
吝かではないが、子供を相手に、ましてや幼い少女などとどうやって接したら良いか
彼には皆目分からなかった。

「一緒に遊べって言われても途中で帰りたいって泣かれても、
 俺にはどうする事も出来ねぇからな」
「大人しい子だし、ちゃんと聞き分けもあるから、その辺は大丈夫だと思う。
 明日は部長に頼んで午後からの出勤にして貰ったから、郡治とサキ、
 …あ、その子の名前、早紀って言うんだけど、早紀と郡治が2人きりに
 なる時間は、せいぜい5時間くらいだと思うし」
「5時間て。一口に言っても長ぇなあ」
「一人っ子だから一人で遊ぶのは慣れてるみたいだし、絵本とか玩具とか
 退屈しないように色々持たせるって言ってたから」
「とにかく、俺はそのお嬢ちゃんが怪我でもしねえように見張ってりゃいいんだろ。
 分かった分かった、引き受けるよ」
「本当?!」

郷嶋の言葉を受けて青木の表情はパッと明るくなる。

「有り難う!!恩に着るよ!!」

そう言って嬉しそうに笑う青木を、郷嶋はその場にゆっくりと押し倒した。

「…まぁでも、子守の駄賃くらい貰ってもバチは当たらねぇよな」

郷嶋の意図を察して青木はそっと彼の首筋に腕を回す。
 郷嶋は青木の身体に覆い被さると耳元でこう囁いた。

「今夜は、うんとサービスして貰わねぇとな」

郷嶋の言葉に、青木は笑って囁き返す。

「…うん、任せて」

寝室に向かうのさえもどかしいと、
そのまま2人は後ろにある革張りのソファに揃って倒れ込んだ。


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