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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★第2話です。
ここからオリキャラの女の子が出て来ます~。
※文中に出てくる青木兄と郡治との経緯については
過去の捏造考察を参照にして下さい。郷青カテゴリに入ってますので。。
 








―――かくして、

「こんにちは。青木早紀です」
「ちゃんとご挨拶できて偉いね、早紀」
「うん!」


青木に手を引かれてやって来たのは、おかっぱ髪の小さな少女だった。
白いブラウスに赤いワンピース、手には熊のぬいぐるみを抱えている。
青木は駅で姪を引き取り、兄夫婦を見送ってそのままの足で帰って来た。
肩には姪の着替えや遊び道具らしき物が入った布鞄を提げている。

「早紀、僕はこれからお仕事があるから。
 帰って来るまでこのおじさんと良い子で仲良くしててね」

少女の傍らにしゃがみ込んだ青木は、郷嶋を指してそう言うと優しく少女の頭を撫でた。
郷嶋は“おじさん”と呼ばれた事に少しばかりムッとしたが、青木が駅に迎えに行く直前、

「郡治は只でさえ目つきが悪いんだから、絶対に怖がらせないように気を付けてね?
 僕が帰って来るまでの間、鏡の前で笑顔の練習でもしておいて!」

…と散々釘を刺された為、文句を言いたいのをグッと飲み込んで極力優しげな顔で

「こんにちは、お嬢ちゃん」

と、彼にしては最大限に優しい声音で少女を迎え入れてやった。

「じゃあ、僕はこのまま行くから。郡治、後よろしくね」
「了解」
「文ちゃん、行ってらっしゃーい」

玄関で可愛らしく手を振る少女に青木は手を振り返すと郷嶋に目配せを一つして、
そのままバタンと扉を閉めて出て行った。

(…さて、どうするかな)

いつまでも玄関で2人並んでいても仕方がない。
 部屋で適当に遊ばせておくか。そう思って少女に

「おいで、お嬢ちゃん」

と手を差し伸べてやると、少女は急にむくれたような膨れっ面で郷嶋をキッと見上げて来た。

「おじちゃん、私“おじょうちゃん”て名前じゃないよ。早紀だよ」
「…」


『僕は“坊や”って名前じゃありません。青木です、郷嶋刑事』


郷嶋には一瞬、目の前の少女と出逢ったばかりの頃の青木の顔がダブって見えた。
意志の強そうな大きな瞳、丸い鼻、キュッと噤んだ口元、少し頭が大きい所まで、何もかも――

「…血は争えねえなぁ」

そう一人ごちて郷嶋は笑った。少女はそんな郷嶋を不思議そうに見上げる。

「なぁに?なんて言ったの?」
「何でもないよ。ごめんごめん、確かに名前を間違えるのは失礼だな。
 それじゃ改めまして、今日は宜しく、早紀ちゃん」

そう言って握手を求める手つきで手を差し出すと、一人前に扱われた事が
嬉しかったのか、さっきまでの膨れっ面はどこへやら、少女は愛らしい笑顔でにっこり笑い、

「“さっちゃん”て呼んでいいよ」

と言って郷嶋の手を、その小さな手で握り返して来た。



部屋に入って青木から受け取った鞄を開けると、案の定着替えの類とタオル、
図画帳とクレパス、絵本、紙風船などの玩具やドロップ缶などが綺麗に整頓されて
入っていた。とりあえずテーブルの上にそれらを並べていると、少女が傍らに近づいて来た。
丁度、郷嶋が手にしたドロップ缶をじっと見つめている。

「なんだ?欲しいのか?」
「うん。メロンの味の、一つ頂戴」
「よしよし」

郷嶋が逆さにして缶を振ると、手の平に赤い飴が転がり落ちた。違う、これじゃない。
続いて紫、橙、黄色。5回目にして、漸く少女お目当ての黄緑色の飴が飛び出した。
郷嶋はそれを指で摘んで差し出してやる。

「ほら」
「ありがとう!おじちゃん」

そう言うと少女はそのまま、郷嶋の手から直接ドロップを食べた。
柔らかな口唇の感触を指先に感じ、まさかそう来るとは思っていなかった郷嶋は
一瞬呆気に取られてしまう。この少女は自分と今しがた出会ったばかりで、
ろくな会話もしていないと云うのに。
事前に青木が自分の事を「優しいおじさん」だとでも言い聞かせたのだろうか。
もしくは幼い子供特有の勘が郷嶋を「安全な存在」と認識したのだろうか。
目の前でドロップを口に含んでにこにこしている少女と自分の指先を交互に見比べて、
郷嶋は思わず苦笑した。心を許した瞬間から懐に飛び込んで来るまでの時間が
滅法早かった、少女の叔父の顔が頭に浮かんだからである。

「ねぇ、なんで笑ってるの?」
「いや、旨そうに食べるなと思ってさ」
「おじちゃんも一個、食べていいよ」

そう言って缶を差し出す少女に、郷嶋は「有り難う」と礼を言って再び缶を振った。
今度は茶色い飴だ。何の味だこれは、と郷嶋が首を傾げると同時に少女が

「チョコレートの味のは、さっちゃんのだから駄目よ」

と言った。別段、郷嶋は飴など食べたくなかったのだが少女との会話の流れ的に、
もう一度だけ缶を振った。今度は白い飴である。

「あ、ハッカ!さっちゃん、それ辛いから嫌い。おじちゃんにあげる」
「…そりゃどうも」

自分の嫌いなものを人に食べて貰う時に「食べて」ではなく「あげる」と言う所まで
益々もって叔父にそっくりである。郷嶋は少女に出会う直前まで身構えていた肩の力が
薄荷特有の清涼感と共にゆっくりと溜め息に混じって抜けて行くのを感じていた。


(…なんだ、思ってたより意外と大丈夫なもんだな)


少女と会うまでは、子供なんてうるさくて煩わしいだけだと思っていた。
帰りたいと泣かれたり大声で喚かれたりつまらない我が儘でも言われた日には
どうしてくれようかと思っていたが、どうやらそれらは郷嶋の杞憂であったらしい。
5才児ともなると多少の分別が付くものなのか、それともこの少女が特別に
聞き分けが良い質なのか、はたまた―――

(案外あれに似て、外面が良いのかもな…)

家の中と外で全く違う2つの顔を持つ彼女の叔父の顔が、なんだか今日に限って
よく浮かぶ郷嶋である。とは言え、大人しくしていてくれるなら、これ程有り難い事は無い。
そう思うと郷嶋は少しばかり気安い気持ちになって

「なぁ、さっちゃん。おじさん少し、あっちの部屋で仕事してても良いかな?」

さっちゃん、と言う語感と自分の事をおじさんと呼ぶ不慣れさに少々妙な気分になりながらも
郷嶋は少女に目線を合わせ、慣れないついでにポン、と頭に手を置いて軽く撫でてやった。
自分はちゃんと愛想良く出来ているだろうか?
郷嶋に問われた少女はドロップで口をもごもごさせながらも

「うん。文ちゃんに、おじちゃんがお仕事してる間は
 静かにしてるってお約束したもん。お利口さんにしていられるよ」
「そうかそうか、偉いな」
「うん!だってさっちゃん、もう大きいお姉ちゃんだもん」

そう言って得意そうに微笑う少女の頭を郷嶋はもう一度撫でてやり、それからトイレと
洗面所の場所を教え、何かあったらすぐ呼ぶように言って自室に引っ込んだ。
自分は今日、溜まっていた書類の整理をしなければならない。

「一緒に遊んで」などと言われたらどうしようかと思ったが、どうやらその心配も無いようだ。
ドア一枚隔てた場所に子供、しかも青木によく似た幼い少女がいる事に少々尻の座りの悪い
気分になりながらも、郷嶋はそれまで一応気を遣って胸ポケットに仕舞いきりだった煙草を
取り出し、煙をゆっくり肺の奥まで吸い込んだ。



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