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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★過去に書いた話を晒してみようシリーズ。

このサイトは2009年の3月25日からスタートしたのですが、
今回の話はサイトをスタートさせてすぐ(4月上旬くらい)に書き始めたものの、
8割くらいまで書いた所で急に脳内に沸いた「榎鳥ブーム」に押されてしまい(笑)
中途で放り出したままケータイの未送信フォルダに放り込んであった代物ですww

そこまで濃い描写はありませんが(当社比)エロ描写ありですので、
苦手な方は回れ右の方向でお願い致します・・・!!












突拍子のない我が儘も“求められてる証”だと思えば
満更でもないなんて、きっともう重症だ。



『ストロベリィ』



「…退屈だ」

そうポツリと漏らされた本日何度目になるかも分からない独り言が、
確実に自分に向けられている事は重々承知しているのだけれど。

「実に退屈だ。なぁマスヤマ」
「…はぁ」

益田は自称・神の発した一言に、顔を上げぬままおざなりに答えた。
益田の目の前には報告書が山と積んであり、先程からこの紙の山と
格闘する事、かれこれ2時間弱。猫の手も借りたいとは正にこの事で、
月末の忙しさも相まって益田自身は決して退屈でもなければ暇でもなかった。

「そんなにお暇なら報告書のチェックでも手伝って下さいよう」

万年筆を滑らせる手を休めぬまま、益田は溜め息混じりの口調で不満を口にする。
全て近日中に仕上げなくてはならない書類ばかりだ。警察官時代から書類書きは
苦手ではなかったが、書いても書いても終わる気配のない枚数に、
益田は少しばかり辟易していた。

「嫌だね。なぜ僕がそんな馬鹿げた事をしなくちゃならないんだ。
 そんな下らない仕事を引き受けたのはお前だろう。
 それに僕はいつも言ってるじゃないか、調査なんてのは馬鹿のやる事だって。
 つまりはお前の仕事だよ、バカオロカ」

…目の前の神はフンとそっぽを向くと、およそ探偵事務所の社主とは思えぬ
悪態を吐き、その長い足を机の上に放り出した。

ここに和寅でも居れば探偵の話し相手になってくれるのだろうが、あいにく彼は
探偵張本人によって何やら言いつけられて遣いに出ている。
益田は前述通りの理由で紙面から顔を上げる事が出来ない。
なので探偵は先ほどから一人で暇を持て余していると云う訳だ。

「そんなに退屈なら、いつもみたいに眠られたら宜しいでしょうに」

榎木津さんが午前中から起きてる事自体、珍しいんですから。
そう提案してみても、

「僕がいつ寝ていつ起きようが僕の勝手だ。僕は眠たくなれば眠るし、そうでなければ
 起きてるよ。そして今は別に眠たくない。よって今は寝る時ではないのだ」

そんな事も分からないなんて、お前は本当にバカでオロカだと、
探偵は当たり前の事を妙に偉そうに言ってのけた。

「…はぁ、もう馬鹿でも愚かでも結構ですよう。とにかく、僕は今とーっても忙しいんです。
 榎木津さんのお相手をしている暇はこれっぽっちも無いんですから」

だから邪魔しないで下さいね、と益田は勇気を出して少々生意気な事を言ってみる。
叱られるかな?と恐る恐る前髪の隙間から様子を伺ってみたが、探偵は自身の髪を
くるくる弄びながら、つまらなそうに天井を見上げただけだった。



それから暫く経って、ようやく長かった書類作成も終盤に差し掛かった頃。

「遅いな。和寅の奴、いつまで油を売ってるんだ」

そう言って伸びをしながら、榎木津はソファにごろんと寝ころんだ。

「確かに遅いですねぇ。もう出掛けられてから2時間も経ってますよ。
 一体、和寅さんに何を頼まれたんです?」

探偵にしては珍しく長い間大人しくしていてくれた為、益田は少し相手をしてやる事にした。

「…イチゴだ」
「イチゴって、あの果物の苺ですか?」
「他にどんな苺があるって言うんだ馬鹿者。苺と言ったらあの甘い苺に決まってるだろう。
 伯母がそれを大量に携えて実家に遊びに来てるんだ。僕に取りに来がてら
 顔を見せろって今朝、電話で催促があってね」

でも面倒だからバカトラに行かせた。
そう言いながら榎木津は優雅に起き上がり、再び足を組んで益田に向き合う。

「伯母様に顔を見せなくて良かったんですか?」
「嫌だよ、面倒臭い。どうせ苺は僕を誘い出す為の口実なんだ。
 僕が屋敷に着いた途端、手土産の苺より大量に携えた見合い写真を
 これでもかこれでもかと見せられるに決まってる」

そう言えば、榎木津は苺とかチョコレートとか、子供の好きそうな甘い物が
好物だったな、と話を聞きながら益田はぼんやりと思い出した。

「いつも彼女はそうなんだ。僕はそんな物に興味は無いって何度も言ってるのに、
 ちっとも聞く耳を持たないで毎回あの手この手で僕を誘い出そうとする。
 考えただけで面倒臭いね。でも、苺は食べたいから和寅に代理で取りに行かせたんだ」

榎木津の口調は心底うんざりしたもので、益田はこの世に榎木津を
うんざりさせる事の出来る傑女が存在する事に興味をそそられた。

きっと顔も頭も家柄も申し分ない結婚適齢期の甥っ子が未だに独身で
ぶらぶらしている(…ように見えるだろう、世間的には)現実を憂い、更に
“おばさん”と呼ばれる人種の標準装備とも言える過剰な“世話焼き精神”でもって、
大量の縁談話を手に榎木津廷へ馳せ参じたのだろう。苺はその呼び水と云う訳だ。

しかし、実際にはそこに現れたのが小間使いの和寅なのだから、伯母上も最初は
がっかりするかも知れないが、件の和寅は何せ噂話が大好きな質だ。
きっと本人不在をこれ幸いとばかりに伯母上に榎木津の近況をある事ない事
垂れ込んだり、伯母上の持って来た見合い相手の人品骨柄を聞いては寸評したりして、
あれやこれやと2人で話し込んでいるのかも知れない。

(なんか和寅さんてオバサンぽいとこあるもんなぁ…案外、榎木津さん抜きの方が
 好き放題言えて、伯母さんと話が弾んでたりして)

そもそも榎木津に結婚する気がさらさら無い事など、益田は重々承知済みである。
それでも良家の子女との見合いの話に多少の興味はあるから、和寅が帰って来たら
話だけでも聞かせて貰うつもりだ。
ついでに金持ちしか食べられない一粒いくらの高級苺にもあり付きたい。

そんな事をつらつらと考えつつ、書類の続きに取りかかろうとした、正にその時。

グッ

ベルトのバックルの下、つまりは自分の中心部分に何かが軽く押し当てられて、
益田は驚いて顔を上げた。そしてテーブルを挟んだ向かい側の、何かを
思いついた顔でニヤリと笑う探偵と目が合う。

「…実に退屈だ。このままでは退屈過ぎて死んでしまうよ。何か面白い遊びは無いものかな」

…なあ、マスヤマ?


そこに押し当てられていたのは、紛れもなく探偵の履いた上等な革靴の爪先だった。




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益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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