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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★第2話。弥生さまのお好きな加/賀/乙/彦的なアレも入れてみました。

カテゴリーに「益×寅」を追加しましたので、以降は
そちらから飛んで見るとスムーズかもです^^;









ガシャンッ!と何かが割れるような音がしたのは、
その直後だった。音を聞きつけた益田が慌てて立ち上がる。

「和寅さん?!如何しました、大丈夫ですか?!」
「あーぁ、やっちまったよ…手が滑ってカップを一つ駄目にした。箒と塵取りを…」

益田が台所にひょいと顔を出すと和寅が割れた陶器の欠片を手で拾い集めていた。

「大丈夫です?手を切らないで下さいよ」
「いやぁ失敗したなぁ。これは5個で1セットなんだ。ソーサーが1つ余っちまった」
「可哀想だから、一思いにそれも手を滑らせてやったら如何です?」
「冗談を言うなよ!これはまた世に出る時までちゃんと大事にしまって…痛ッ!」

急に和寅が鋭い悲鳴を上げたので、益田は
慌てて普段は和寅の城である台所に駆け込んだ。

「ああ、言わんこっちゃない。どこを切ったんです?手を見せてご覧なさい」
「違う、手じゃない…」
「え?」

和寅は怯えたような顔で己の顔を指差した。

「め、目が…」
「えぇ?!」


和寅の言葉に、今度は益田が顔色を失う番だった。

「目が、目が急に痛くなって…!」
「瞼を抑えちゃ駄目です!和寅さん、
落ち着いてゆっくり目を開けて、慌てないで、そう…」

己の右目を指差して取り乱す和寅に、流石に益田も狼狽える。
まさか飛び散った陶器の破片が目に入ってしまったのだろうか?
だとしたら早急に水で洗い流さなくては大変な事になる。
しかし目の上に付着した破片を指で迂闊に摘み、万が一眼球に刺さりでもしたら…。

嫌な想像ばかりが頭を巡り、益田はまず、自分を落ち着かせようと大きく息を吐いた。

「和寅さん、落ち着いて。取り敢えず目を開けて
 僕に見せて下さいな。取って差し上げますから」
「うぅ…痛い…」

痛みと恐怖で潤んだ瞳を、益田はくまなく検分する。運良く破片が涙で
流れ落ちてくれれば良いのだが…。しかし次の瞬間、益田は和寅の黒目の上に
“ある物”を見つけ、心底ホッとしたように溜め息を吐いた。

「…なぁんだ、良かったぁ」
「どこが良いもんか!後生だから、見つけたなら
早く取っておくれよ。でないと失明してしまう…!」

怯えを含んだその声に益田はくすりと笑い、目の前の彼を落ち着かせる為に
その癖毛の頭をポンポンと撫でてやった。

「ご安心下さい。これじゃ失明のしようがありませんよ。
だって和寅さんの目に入っているのは、破片じゃなくて単なる睫毛ですもの。ま・つ・げ」

益田の告げた意外な“犯人”に和寅は一瞬ぽかんとする。

「睫毛?本当に?」
「いくら僕でもそんな質の悪い冗談は言いませんてば。本当です。
長い睫毛が一本、黒目の上に倒れてますよ。カップを割られた時と
同じタイミングだったから、破片が飛んだと勘違いなさったんでしょう」

益田のその言葉に、和寅は漸く、それまで長く詰めていた息をほぅ、と吐き出した。

「なんだ、私ゃてっきり瀬戸物の破片が刺さったんだとばっかり。
いやいや、今ので10年は寿命が縮まったよ」

全身の力が抜けた和寅は、へたりと台所の壁に凭れ掛かる。

「僕も驚きましたよ。でも良かった、大した事は無くて。和寅さんは瞳が大きいから、
こういう目に遭いやすいんでしょう。どれ、ついでだから取って差し上げます」

そう言って益田は和寅の頬を両手で挟み顔を上向きにさせると、
そのまま彼の右目に己の顔を近付け、そして…




ペロリ。





「ほら、取れましたよ和寅さん」
「な……ッ!?」

そう言ってニコリと笑った益田は、薄く唇を開いて見せる。
そこから覗く舌の先に乗っているものは―――。

「なっ!何するんだい、この変態!!」
「変態って…酷いなぁ和寅さん。
 そのままじゃ痛いだろうと思って折角取って差し上げたのに」
「だからってそんな!君は今、何をした?!私の目を、な、舐め…!!」


――そう。

益田は和寅の目の中に入った睫毛を取る為に、彼の眼球を…舐めた。
予想もしていなかった益田のその行動に、和寅は耳まで真っ赤にして抗議する。

「ふ、普通に取れば済む話だろう!何もそんな…!!」
「だって爪を引っ掛けて取る訳には行かないでしょう?
目に異物が入った時はこうして取るのが一番安全なんですよ」
「そんな話は聞いた事が無いぞ!この変態め!」
「変態変態って2回も言わないで下さいよ、流石に傷付きますって。
 …あ、もしかして照れてらっしゃいます?なんなら左もして差し上げましょうか」
「要らないよ!この馬鹿!」
「痛ッ!」

調子に乗ってにじり寄って来た益田の手を和寅がピシャリと叩き伏せると、途端に
彼は顔をしかめて左手の甲を抑えた。そんなに強く叩いたつもりなど無いのに
何を大袈裟なと彼を叱りつけようとした和寅は、しかし次の瞬間、益田の手の甲に
一筋の深紅が滴っている事に気付いて呆然とした。慌てて自分の右手を確認すると、
中指の爪の先にほんの小さな、しかし鋭利な陶器の破片が挟まっていた。

「ご、ごめんよ益田君!大丈夫かい?!」
「あぁ、大した事ありませんよ。少し切れただけです」
「と、とにかく消毒しないと、包帯とアルコールを…」

そう言って慌てて台所から出て行こうとする和寅の着物の袖を、益田が素早く掴んだ。

「本当に大丈夫ですから。薄く切っただけですし、唾でも付けておけば治ります」
「でも…」

自分のせいで益田に怪我をさせてしまった和寅は、申し訳なさそうに下を向いてしまう。
そんな彼を気遣って、益田はおどけたように笑って見せた。

「お気になさらないで下さい。僕も調子に乗り過ぎましたね。
 子猫を揶揄えば引っ掻かれるのは当然です」

普段なら、そんな風に益田に言われたなら即“誰が子猫だ!”と
反論する和寅だが、今はただ申し訳なさげに下を向いたまま動かない。
益田はそんな意気消沈した和寅の前に左手を差し出すと、

「…では、和寅さんに治して頂こうかな」

そう言って和寅の顎を軽く掴んで上を向かせる。和寅は再び視線を台所の外に向けた。

「じゃあ、やっぱり救急箱を…」
「そんな必要はありませんよ。こんなもの、単なる掠り傷です」
「でも、」
「…だから和寅さんが“治療”して下さいな。
 これ位、唾でも付けておけば治りますもの。ね?」

そう言って和寅の口唇を軽くなぞって笑う益田に、
 和寅は漸く彼の言わんとしている事を理解した。





ぴちゃ、と云う濡れた音を立てて和寅は益田の手の甲に舌を這わせる。
微かに口内に鉄の味が広がるが、気にせず舐め取った。
益田が小さく笑いながら和寅の髪に手を伸ばす。

「ふふ、くすぐったいな。和寅さんは本当に
 猫みたいですね。でも、これで早く良くなりそうです」
「そう、かい…?」

傷に舌を這わせたまま、和寅は上目遣いで益田の顔を伺う。
途端に益田は照れたようにその長い前髪を掻き上げる。

「堪らないなぁ、その顔。何だかいけない事をしている気分になる」
「…?」

もう結構ですよ、と言う益田の言葉に和寅が顔を上げると、そのまま強引に唇を塞がれた。
そんな予期せぬ益田の行動に驚いて何か言い掛けるが、その薄く開いた唇に
狙い通りとばかりに舌を差し込まれ、和寅は軽い目眩を覚える。

歯列を割られて上顎を舌でなぞられると、背中にぞくぞくとした震えが走り、
堪らず顔を引こうとするが、すかさず頭の裏に手を回されてそれすら叶わない。
そのまま舌を絡め取られて思いきり吸われ、息をする事も満足に出来なくなった。
まさに「貪る」と云う表現そのものの口吻けをされて、しかし益田の勢いに付いて行けず、
和寅は抗議の意味を込めて彼の背中をどんどんと叩いた。

「大丈夫ですか?和寅さん」
「ぷはっ!だ、大丈夫なもんか!何をするんだい、窒息させる気か!」

今度はあっさり口を離して呑気に語り掛ける益田に、ぜえぜえと荒い息で和寅は
抗議しようとするが、息が上がってしまって上手く言葉が出ない。おまけに互いの唇を
銀糸が伝っているのを目の当たりにして、和寅は首筋まで真っ赤になった。

「和寅さん、口接けの時は鼻で呼吸した方が良いですよ?」
「そういう問題じゃないだろ!何だって急にこんな…!」
「急にじゃありませんよ。今のは傷を手当てして下さった和寅さんへの、ほんのお礼です」
「お礼って…!」

ほら、と言いながら益田がおもむろに自分の左手を眼前に翳した。
確かに今では血も止まり、微かに紅い線が手の甲に伸びているだけだ。
益田は悪びれた様子もなくその手をひらひらさせ、

「和寅さんに治療して頂いたお陰でほら、この通りです。
それに…昼間からあんな艶っぽい顔を見せられたら堪りませんよ」

そう言って、益田はその薄い唇を弓なりに吊り上げた。

「貴方は誘い上手な方ですねぇ。しかも無自覚だから余計に質が悪い。
決して余所であんな真似をしてはいけませんよ?物騒な世の中、悪い男に何を
されるか分かりませんからね。貴方は黙っていれば、なかなかの器量良しなんだから…」

そう言うと、常日頃から「卑怯」を自認する男は和寅を台所の壁と
自らの身体の間に挟み込み、逃げられぬように顔の横に手をついて見せた。
和寅は益田を睨み付けたまま、しかし本気で逃げようとする素振りは見せず、
その、男にしては朱い唇を尖らせるようにして言い放つ。

「余計なお世話だ。それに、それを言うなら“悪い男”は君だろう」
「心外だなぁ。僕ほど善良で無害な人間は居ませんよ」
「よく言うよ。君こそ黙っていれば少しは格好が付くってのに…」

和寅のその言葉に、益田は我が意を得たりと微笑みかける。

「では、もうお互い黙りましょうか。これからの営みに言葉は要らない」
「営みって、まさか…」

ここでするのかい?と云う言葉は最後まで言わせず、益田はその
まだ何か言いたげに戦慄く唇をそっと塞いだ。


(3) へ

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電車で読書。
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益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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