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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★聖なる夜に、突発的SSをアップです!今夜の主役はこの2人^^!
年内の小説更新はこれでラストになります。当サイトに訪れて下さった
全ての皆さんに、林檎からのささやかなクリスマスプレゼントです♪♪

Happy Merry Christmas!!LOVE!!








【 I wish 】



「和寅さぁん!ちょっとちょっと!早くこっちに来て下さいよッ」
応接間のソファから聞こえてきた騒々しい声に、和寅は雑巾を絞る手を一旦止めた。

「何だい?どうかしたかい、益田くん」

和寅が台所からひょいと顔を出すと、案の定益田がこっちこっち、と
自分に向けて手招きしていた。益田は月末の報告書の作成の最中らしく
万年筆片手だが、別段何かあったような気配は無い。

「何か用かい?私ゃ雑巾掛けの途中で忙しいんだよ」
「そんな、慌てなくても台所の床は逃げませんよ。そんな事よりほら!
 早くこっちに来て下さいってば!僕ぁ大変な事を知っちゃったんです!」
「だから何をだい?騒々しいな。私ゃまだやる事がいっぱいあるんだよ」

そう言いつつも、和寅は自分に向けて手招きする益田の所まで雑巾片手に歩み寄る。

「ほら、何が大変なのか知らないが、言いたい事があるなら早くお言い」
「じゃあ、隣に座って下さいな」

益田は自分の横の席をポンポンと叩いて和寅に着席を促す。
掃除の途中で座ってしまうと立つのが億劫だと思ったが、
益田が珍しく食い下がるので和寅は言われた通りに着席してやった。

「ほら、座ったよ。で、何が大変なんだい?」
「あのですね、和寅さん、」





ちゅ。





何の脈絡もなく、益田は和寅の朱唇に口吻けた。和寅は一瞬面食らった顔をし、そして


「―――ふざけてるなら私ゃもう立つよ」
「だ、断じてふざけてませんッ!至って大真面目です!和寅さんッ行かないでッ」

腰を浮かしかけた和寅の袴を掴んで益田は縋り付く。

「あのねぇ、私ゃ見ての通り忙しいんだよ。年の瀬はやる事が多くて只でさえ
 猫の手も借りたい位だってのに。用があるのかと思って来てみたら、
  まさかこれが用事だなんて言うんじゃないだろうね」
「あ!よく分かりましたね和寅さん!そうです、これが用事です」


そう言うと、益田は満足気にニコニコした。
沈黙。


「…やっぱりふざけてるなら立つよ」
「わーッ!行かないで和寅さん!ちゃんと説明しますから!」


益田の説明によれば、本日は「クリスマス」と云う西洋の祭りなのだそうだ。
キリストとか云う神様が生まれた日らしく(この辺の説明は益田自身もあやふやだった。
きっと本人もちゃんと理解していないに違いない)、その日を西洋では皆して
ご馳走を食べたり歌を唄ったり木に飾り付けをしたりして祝うのだと云う。

外国にそんな洒落た風習がある事を和寅は知らなかった。

そんな楽しそうな行事があれば、榎木津家の面々が黙っておらず毎年何か大々的に
パーティーでもやりそうなものだが、あの屋敷では盆暮れ正月や春夏秋冬問わず
しょっちゅうパーティーを開き(しかも和寅から言わせれば、彼ら華族の食事は常に
三食ともご馳走である)、やれ椰子蟹レースだの仮装大会だの鬼虐めだのと妙な催しを
年がら年中行っていたので、もしかしたらその中にクリスマスなるものも入っていたのかも
知れないが、和寅には何が何やら見分けが付かなかった。

「で?その“くりすます”とやらと今の君の行動と、どういう関係があるんだい?」
「あのですね、クリスマスってのは家族や恋人と一緒に過ごして、
 お互いの愛を深め合う日でもあるんだそうですよ!さっきラジオでそう言ってました!」

確かに益田は先程からトランジスタラジオを付けていたが、
和寅は掃除に夢中で内容など右から左だった。

「…私ゃ仏教徒なんだけどねぇ」
「この際そんなの関係ないですって!お祭りってのは楽しむ為にあるんです。
 自分の誕生日を皆でワイワイ祝ってくれれば、その何とかって神様も喜ぶでしょ」
「1日だけのにわか信者になってもねぇ」
「もう!堅い事言わないで下さいよ!だからほら、和寅さん!」

そう言って益田は自分の口唇を指差した。

「何だい、口がどうかしたかい?」
「さっきのお返し、して下さいよ」

そう言ってご丁寧に目まで瞑った益田に、和寅は大きな溜め息を吐くと、

「嫌だね。そもそも私はしてくれなんて一言も頼んでないのに、
 勝手にして来たのはそっちだろ。あんまり馬鹿な事ばっかり言ってるとね、
  その口を丈夫な糸でまつり縫いにするよ」

と、呆れたようにジロリと睨んでやった。
しかし隣に座るこの男は、これ位で臆するようなタマではない。
それどころか、

「そんな顔で睨んだってちっとも怖くありませんよ、可愛い人」

などと言って図々しく腰に腕など回して来る。

「知ってます?クリスマスに心の中で願い事をしながらキスをすると、
 その願いを神様が叶えてくれるって言い伝えがあるそうですよ」
「…それもラジオの受け売りかい?」
「え?そうですけど」

しれっとした顔でそう言ってのけた益田に脱力しつつ、

「そんなの迷信に決まってるだろ」

と、和寅はその発言をバッサリと切って捨てた。途端に益田は情けない声を出す。

「えぇー?夢が無いなぁ、和寅さんてば。信じる所から始めないと迷信かどうかも
 分からないじゃないですかぁ。宝くじも買わなきゃ当たらないし、願い事も信じなきゃ
  叶いませんてば。当たるも八卦、当たらぬも八卦ですよ」
「最後の例えは違うと思うけどなぁ」
「とにかく!今日はそういう日なんです!」
「えぇー?」

さぁ和寅さん!と迫る益田に、仕方ないなぁ、と言って和寅は口唇ではなく頬に一つ、
軽く触れるだけの口吻けをしてやった。このまま益田とするしないの押し問答をするのも
時間の無駄だと判断したからである。

「…どうせなら口にして欲しかったなぁ」
「うるさい奴だね、してやっただけでも有り難く思いな」
「はいはい。では続きは夜に持ち越しと云う事で。
 …で、和寅さんはどんなお願い事をしたんです?」

益田は目を爛々と輝かせて問う。

「こういうのって、人に話したら叶わなくなるって言わないかい?」
「えー?それって神社とかでする願掛けの場合じゃないですか?
 大丈夫ですよ、今回は何たって相手が外国の神様なんだから」
「てか君、そう言う時は自分のから話すのが筋だろう。君の方が先に願い事をしたんだから」

君から教えてくれれば、私も教えてやってもいいよ。

和寅はそんな交換条件を出してみる。そんな言葉に、益田はコホンと咳払いを一つして、





「和寅さんと、ずーっと一緒に居られますように」




和寅の目を見つめ、きっぱりとそう言って微笑った。

「…それが君の?」
「はい!」

あまりにはっきり言い切られてしまった和寅は、

「…そうかい」

と言って、益田から目を逸らすように下を向いた。
見ればほんの少し、耳元が朱に染まっている。
益田はそんな和寅ににじり寄ると、先程の言葉の先を促す。

「さぁ、僕の願い事は言いましたよ。今度は和寅さんの番だ」

さぁ恥ずかしがらずに仰って、そう言ってクスリと笑う益田の顔が生意気だったので
和寅はそんな目の前の男の鼻先をピンと弾くような仕草をして、それからぼそりと

「…デリア」

と言った。

「え?和寅さん、いま何て言ったんです?」

和寅の放った謎の言葉に首を傾げた益田に、和寅は一気に息を吸い込むと、今度は明瞭に

「シャンデリアの電球換えと天窓の掃除とカーテンを洗濯屋に持って行くのと
 私の部屋の障子の張り替えと年末の買い物の荷物持ちと御節に入れる
  栗きんとんの栗の渋皮剥きを、ぜ――んぶ益田君がやってくれますように」

と一気に捲し立てた。

一瞬だけ流れる沈黙。

「えぇぇー?!ちょ、和寅さん?まさか今のが願い事だとか言うんじゃないですよね?!」
「え?そうだけど?」
「そんなぁ…」

しれっと言い切った和寅にガックリと肩を落として益田はうなだれる。

「普通、こう云う時って“僕も益田君と同じさ”とか言うものなんじゃないんですかぁ?」

しかもそんな、神様にお願いするまでも無い事じゃないですかぁ、と眉を下げる。

「願うまでもない事かね?」
「そうですよぅ。てか目の前の僕に直接言ったら済む話でしょうに」

なぁんだ、もっとロマンチックな答えを期待してたんですよ僕ぁ。
しかも大掃除や下ごしらえの、とりわけ面倒な事ばっかりじゃないですか、
そう言って長い前髪をパサリと下げる益田に

「君の方こそ、」

和寅はそう言って益田の髪を指で掬い上げる。

「君の方こそ、神様に願うまでも無い事だろう」

そう言って、益田の顔を和寅は横から覗き込んだ。

「神頼みなんかしなくても、私ゃずっと此処にいるんだ。
 だから君は居たいだけ此処に居ればいい。そうすれば…」

君の願いは叶うって事だろ?

そう言って和寅は微笑った。

「か、和寅さぁん…!」

益田は勝手に目頭を熱くしてブンブンと首を縦に振りまくる。

「で、私の願いは叶えて貰えるのかね」

どうなんだい、益田くん?

「和寅さんは、そんな願いでいいんですか?もっとこう…」
「だって、私の願いはもうほとんど叶っちまってるからねぇ」

益田の言葉を遮るようにして、和寅は言葉を繋ぐ。

「君が春に突然この事務所にやって来て、そりゃ最初は驚いたけどね、
 今じゃ君が居て、先生と私が居るのが当たり前になってる。
  君は図々しいからなぁ、まるで最初から此処に居たみたいに普通に
   溶け込んでるじゃないか。それに、ウチの先生も御前様もお屋敷の皆も
    お元気でいらっしゃるし、戦争が終わってやっと手に入れた平和な時代だ、
     当面は何の心配もない。これ以上、何かを望んだらバチが当たるってもんだ」


だから私の願い事なんてその程度で十分なのさ。どうだね?

そう言って首を傾げる和寅に、益田は

「ええ…僕もそう思います」

そうして2人、顔を寄せ合って微笑う。

「それに…」

益田は自らの腕で和寅の身体を包み込むように抱き寄せ、その耳元に直接言葉を吹き込む。

「それに和寅さんの願い事を全部叶えるなら、僕達は年越しから新年まで
 ずーっと一緒だ。僕にとったらこんなに嬉しい“お年玉”はありませんよ」

「君は正月は実家に帰らないのかい?」
「松が取れてから顔を出そうかと思って。三が日はどうせ、榎木津さんは
 お年始にかこつけて中禅寺さんの家や関口さんの家に行ったり、
  木場さんや司さん達と新年会だと言って事務所を空けるんでしょう?
   だったら僕は、和寅さんと一緒に居たいな」
「この親不孝者め。私はお屋敷に新年のご挨拶がてら、両親にも顔を見せるつもりだよ」
「あ、じゃあ僕は和寅さんのご予定に合わせて実家に帰りますよ。それで良いでしょう?」
「君はどうやったって此処に居座るつもりだな?」
「だって和寅さんがさっきご自分で仰ったんですよ?好きなだけ此処に居てもいいって」
「…確かに言ったけども」
「それに最後は皆が此処に集まるでしょう?そうしたら和寅さんは腕の見せ所だ、
 僕も手伝いますよ。猫の手よりも助手の手の方が役に立ちますって絶対。
  栗だって和寅さんの御節が食べられるなら、僕が山ほど剥いてやりますよ!」

そう言って腕まくりまでして細腕に力を込める益田にクスリと笑いながら、

「じゃあ、ついでに明治神宮までの初詣も付き合って貰おうかな。
 事務所に飾る御札とか諸々を買わなきゃいけないから」
「お任せ下さい!喜んでお供致します!!」

そう言って益田は薄い胸をドンと叩く。

互いの願いを叶えるのは、他ならぬ互い自身。
そうしてまた2人、新しい年を迎え、季節は繰り返し繰り返し巡って行く。

「和寅さん、来年も再来年もその次も、ずーっと宜しくお願いしますね」
「仕方ないなぁ。嫌だって言ったって、どうせ君はずーっと此処に居るんだろう」
「ええ、勿論」
「しょうがないなぁ」

顔を寄せて2人、クスクス笑う。
冬の寒さが互いを近付けるから、この季節が前よりももっとずっと好きになる。


1人と1人が出逢って、2人。これからも、ずっと一緒。


「…こちらこそ、来年も再来年もずっと宜しく。益田君」
「はい!宜しくお願いします!」

この聖なる日に、心から愛を込めて―――




Merry christmas and  Happy new year !!






(fin)
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