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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★第11話。これにて完結です。

結局、男女間でも同性でも、一番大切な事は
「相手を思いやる気持ち」と「感謝」なんだろうなぁ・・・と思います。
それが無いと、愛情なんて本当にあっけなく冷えて無くなってしまうと思うし。

「絆」って字は「糸」が「半分」て書くけど、それって、2人が色んなものに導かれて出会った
“運命の糸”と、残りの半分は“出逢ってからの2人が築き上げていくもの”によって
構築されていくもののように思います。上手く説明できないけど・・・そうだと信じたいな。

この話を書くにあたって、愛情とか幸せとかパートナーシップとか、
「他人同士が共に生きていく」って云う事を凄くいっぱい考えました。

改めまして、素晴らしいお題を下さったシュシュさんと、
ここまで読んで下さった皆様に心から感謝です。LOVE!










翌朝、青木は台所の方から聞こえる物音で目を覚ました。
自分の左隣のシーツからは既に温もりは消えており、一足先に
郷嶋が覚醒した事を物語っていた。もぞもぞと起き上がり,寝巻き姿のまま
台所を覗くと、案の定そこには郷嶋が珈琲のカップを片手に朝食の支度をしていた。

「おはよう、郡治」

青木は背後からそう声を掛けるが、肝心の恋人はつっけんどんに

「何がおはようだ、呑気に飯が出来た頃に起きてきやがって。
 今日が休みだったから良かったようなものの、時計を見ろ。殿様か、お前は」

・・・振り向きもせず、そう返した。ほんの数時間前まで自分を腕に抱き、
甘い言葉を吐いていた恋人はすっかりいつもの調子に戻り、青木を
ジロリと見つめると柱の時計を指差した。

時刻は午前9時。あれから5時間以上は寝た計算である。

「邪魔だからボーっとしてんな。それと皿くらい運べ」

そう言ってベーコンと目玉焼きの乗った皿を手渡される。

「…ありがと。そう言えば早紀は?起こさなくていいの?」
「お前なぁ、」
「おはよう文ちゃん!やっと起きたのね、お寝坊さん!」

リビングから、とうに着替えを済ませた少女がひょいと顔を覗かせる。

「ちっとはあの子を見習ったらどうだ。さっちゃんはなぁ、
 お前よりずっと前に起きて朝飯の支度の手伝いをしてくれたんだぞ。
  ダラダラ寝てるのはお前だけだ、このぐうたら。殿様か、お前は」
「あはは、文ちゃんまた怒られてる。大人なのにー」
「はいはい、すみませんねぇ」

姪と恋人が結託し、2対1では分が悪い事この上ない。
怠け者のレッテルを貼られて釈然としないが、まさか子供の前で、昨夜の情事の余韻で
受け身である自分の方が疲れていて当然だとは口が裂けても言えなかった。
仕方なく青木は早々に白旗を上げる事にする。…が、そこにすかさず姪が突っ込む。

「文ちゃん、ハイは一回でしょ」
「はい。ごめんね…」

全く、これでは叔父として立つ瀬がない。

「ったく、5才児に説教されてんじゃねえよ。殿様か、お前は」
「今のは殿様と関係ないから!!」

妙にそのフレーズが気に入ったらしく、意味もなく連発してくる郷嶋に反論しつつも、
青木は小さく溜め息を吐いた。

(…何だかこれ、昨日の夜と一緒じゃない?)

姪と恋人の間に流れる親子のような自然な空気に心掻き乱されて。
自ら起こした嵐。降らせた土砂降りの雨。

それを止ませたのは、紛れもなく自分の隣にいる唯一無二のひと。

「さっちゃん、テーブルに箸並べて来て」
「はーい」

郷嶋の言葉に、姪は人数分の箸を持つと台所を後にした。
再び、2人きりになる空間。

「…そっくりだな」

そこで郷嶋がぽつりと口を開く。

「え?何が」
「お前とさっちゃん。やっぱり血は争えねぇよ。
 笑った顔とかちょっとした仕草とか、お前にそっくりだ」
「そう、かな?あんまり意識した事ないけど…」
「そういうのは当の本人は意外と分からねぇもんなんだよ」
「そうかなぁ…」

自分では考えてもみなかった事を言われ、青木は姪のいるリビングを見つめる。

「…親子みたいだと思ってな」
「え?」

ふいにそんな事を口にする郷嶋を、青木は不思議そうに見つめる。

「お前とさっちゃん、並ぶと本当の親子みたいだからさ。
  お前があの子を連れて玄関を開けた時、
     一瞬あの子が本物のお前の娘みたいに見えたんだよ」
「郡治、」

それは昨日の晩、自分が郷嶋に抱いた思いと同じである。
郷嶋も、同じように自分達2人を眩しく見ていたのだろうか―――。

「あの子と2人きりにされた時も、何だか初めて会った気がしなかったから
 すぐに打ち解けたんだ。それでも最初は、お前が子供の時分は
  こんな感じだったのかとか考えてたんだけどさ、」

そこで郷嶋は青木の顔を見据えて一言、

「もし俺とお前の間に子供が居たら、こんな感じなのかとか思ってな、
 …柄にも無くはしゃいでたんだ。あんなデカいクレパスまで買ってやってさ」
「…ッ」

そこまで言うと、郷嶋は照れくさそうに後ろを向こうとする。
 が、それを引き止めるように青木は郷嶋の腕を強く掴んだ。

「郡治、あの…ッ」
「これ以上はノーコメントだ。皆まで言わせんな、察しろ」
「うん…!」

いつも通りのぶっきらぼうな言葉の端に、彼の優しさと自分に向けられた強い想いを感じて。

「郡治、郡治…ッ」

青木は手に持った皿をとっさに流し台に置くと、郷嶋の背に腕を回した。

「昨日は変な事言ってごめんね…!それから、有り難う。僕、僕…」

縋り付くようにきつく腕を回して胸元に顔を埋めてくる青木に、郷嶋は

「朝っぱらからピーピー泣くんじゃねえよ」
と笑って青木の髪を指で梳いた。

「な、泣いてないよ…ッ」
「しょうがねえなぁ」

前掛け越しにくぐもった声で反論する青木に、
分かった分かったと軽い相槌を打ちながら、郷嶋は

「ほら、顔上げな」

と言って青木の両肩に手を掛けた。
その言葉に反応した青木は、ゆっくりと郷嶋の視線に己のそれを合わせる。

「文蔵、」
「郡治…」


互いの愛情の衝突点まで、あとほんの僅か―――。





「あー!!文ちゃん達、チュウしてるー!!」

突如、背後から響いた大声に驚いた2人が振り向くと、
そこには目を丸くして口をぽっかりと開けた少女が立っていた。

「さ、早紀…!いつから居たの…?!」

青木は郷嶋を半ば突き飛ばすようにして身体を離し、姪に向き直る。

「今だよ。お箸並べ終わったから戻って来たの」
「そ、そう…ご苦労さま」

青木は極力冷静さを保とうと努めるも、そんな事では“女の好奇心”は満たされない。

「ねぇねぇ!今、文ちゃん達チュウしてたんでしょ?!
 なんで止めちゃったの?ねぇ、なんで?」
「し、してないッ!そんな事全然してないよ!い、今のはそう、ゴミ!
 目にゴミが入ったから取って貰ってたんだよ!ね、郡治!」

姪の猛攻に青木はしどろもどろになりながら郷嶋に助けを求めるが、当の郷嶋は
卑怯にも明後日の方向を向いている。それも意味もなく咳払いなどして素知らぬ風を装って。
もしかしたら照れてバツが悪いのかも知れないが、肝心な時に助け舟を出す気配もない。
そんな薄情な恋人の足を、青木はスリッパのままで軽く蹴った。しかし興奮した姪は、
大人2人のそんな事情などお構いなしで、青木の寝巻きの裾をぐいぐい引っ張り、

「ねぇねぇ、チュウしたからおじちゃんと文ちゃんは結婚するの?!
文ちゃん、もう指輪もらった?ダイヤモンドのキラキラしたやつ貰った?」

と、そちらこそ無垢な瞳をまるでダイヤのようにキラキラさせて矢継ぎ早に問い掛ける。

「ねぇねぇ、教えてよー」
「そんな事はいいから早紀、もうご飯にしよう!せっかく郡治が作ってくれたのに、
 早くしないと冷めちゃうよ?僕もお腹すいちゃったし、ほら、このお皿も持って行って!」

青木は流し台に置いたままだった皿を姪に押し付け、
そのまま背中を押してリビングに向かうように促した。

「ずるいよー!仲間外れはいけないんだから!さっちゃんにも教えてよー!」
「ずるくないし仲間外れでもないよ!本当に何もしてないったら!
 ほら、早くしないとパパとママが帰って来ちゃうよ!」
「文ちゃんのケチー!」
「ケチじゃないの!」
「何よー、チュウしてたくせにー!」
「してません!あれは未遂!」
「ねぇねぇ、ミスイって何?」
「あーもう、いいから!」

まだキャンキャン言い争っている騒がしい2人を見送って、
郷嶋はやれやれと珈琲のカップに口を付ける。少しぬるくなってしまったが、まぁいい。

郷嶋は見つけてしまった。
少女の背中を押す青木の左手に、小さなアルミの輪が填まっている事を。
その事に一人満足げに目を細め、少しばかり冷めてしまった味噌汁に
再び火を入れるべく、郷嶋はコンロに手を掛ける。

それはダイヤモンドでもなければプラチナでもないけれど。
きっと今の自分達には、それ位で丁度良い。
不格好でバカバカしい、それでも掛け替えのない、幸せの形。

放物線を描いて自分の手の中に飛び込んで来たものを、余す事なく全て受け止め、
相手にも同じ分だけ返す事が出来たなら。

その反復が日常となり、その偉大なる繰り返しを人生と呼べたなら。
それは、何と幸福な―――。


「さぁ、飯にしよう」


立ち昇る湯気の中にその意味と答えを見出した気がして―――郷嶋は一人、大きく頷いた。






(了)
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