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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★第3話。
子供時代があんなサラサラヘアーだという事は、現在の榎木津さんは
パーマネントなのでしょうか。毎朝セットに凄い時間掛けてても萌える。。








(子供の頃って、夢と現実の境目が分からなくなる事ってあるもんな…)

益田とて幼少期、甘い菓子をたらふく食べる夢を見て飛び起き、まだ寝ている
両親の枕元に向かって「ねぇ、僕のお菓子は?」と藪から棒に尋ねて
仰天させた事がある。これは未だに折りに触れては両親の“懐かしい笑い話”として
話題に上り、その度に益田は恥ずかしい思いをする羽目になるのだが、
きっと目の前の少年も事務所のソファで待ちくたびれてうたた寝をし、
夢と現の境目があやふやになっているに違いなかった。

取りあえず少年がココアを飲み終わるのを待って、話はそれからだ。
中野の中禅寺宅に電話をすれば榎木津邸の番号や所在を
知っているかも知れないし、そうこうしている間に和寅が
帰って来てくれれば好都合だ。

「あのね、礼くん」
「思い出したッ!!」
「な、何を?!」

急に大声を出した少年に驚いて益田は思わずひっくり返った声を出すが、
そんな事には意にも介さず少年はすっくと立ち上がる。

「なんて事だ!僕はすっかり忘れてた!」
「こ、今度は何?」

出会ってからこれまで、この少年には驚かされっぱなしの益田である。
目をぱちぱちさせている益田の前で少年はココアを一気に飲み干し
「ごちそうさまっ!」と叫ぶと、

「今日は修ちゃんに秘密基地を見せてもらう約束してたんだ!
 兄さまと隠れんぼしたりココアを飲んだりしてる場合じゃないッ!」

そう言って居ても立ってもいられないと云うように足踏みを始めた。

「本当?じゃあ、すぐに帰る用意をしないと…」

少年から空になったマグカップを受け取ると、益田は台所に駆け込んだ。
流しにマグカップを放り込み、大急ぎで中に水を満たす。

「ちょっと待ってて!今送ってあげるから…」

机の引き出しから電話帳を取り出し、中禅寺宅の番号を調べるまでの手順を頭の中で
反芻する益田だが、少年は何を思ったか榎木津の私室に向かって全力で走り出す。

「そんな時間無い!いい!一人で帰れるから!」
「あっ!ちょっ、そっちは…」
「ばいばい、マスダ!」

益田が追いかけるよりも一足早く、少年は榎木津の部屋にバタンと駆け込んでしまった。

「駄目だよそっちは!帰るならこっちへ…」

益田は慌てて後を追うが、榎木津の部屋を開けた瞬間、呆然としてしまった。

「居ない…」

中はがらんとして、もぬけの殻だった。

「え…嘘、どういう事…?」

あの少年は確かにこの部屋に入った筈である。扉の開く音は勿論、
閉まる瞬間を益田はこの目でちゃんと確認している。
では何故、そこに居る筈の少年は忽然と姿を消してしまったのか。
益田は慌ててベッドの下や机の下、箪笥の裏などを覗き込むが、
少年の姿はどこにも見当たらなかった。

(え…?何、どういう事…?)

一気に跳ね上がる心拍数。まさかとは思うが、逸る気持ちを抑えながら益田は
榎木津の部屋の窓を開けた。そして恐る恐る下を見るが、そこにはまばらに
通行人の姿があるばかりで、少年が誤って転落して大騒ぎになっている様子は
微塵もなかった。

益田は、ともすれば思考停止に陥りそうな己を叱咤して探偵社中を探し回った。
まずは事務所の机の下、ソファの裏、榎木津の机と椅子の隙間、衝立ての裏、
続いて台所、洗面所、風呂場、トイレ、和寅の私室、また一周して榎木津の私室。
しかし、いくら探しても少年の姿はどこにも見当たらない。

「ねぇ!礼くん、どこに居るの?返事してよ…!」

そう叫びながら、益田は段々と己の背筋に薄ら寒いものを感じた。
あんな短時間で一人の少年が煙のように姿を消してしまうなんて事が
果たして有り得るのだろうか―――。

物の怪。
この世ならざる者。

益田は、少年の透けるような肌と整い過ぎた人形のような顔立ちを思い返す。
確かに浮き世離れした美しい顔をしてはいたが、まさかそんな筈は―――。

諦めが付かない益田はもう一度、榎木津の私室をぐるりと見渡す。
するとそこに、あるものを見つけた。榎木津の部屋の一番奥。
そこに備え付けられたクローゼットの扉が、ほんの少しだけ開いているではないか。

先程は動転していて、確かそこまでは調べなかった。ゆっくりと近付いてみると、
その扉の縁に微かに茶色の粉が付着しているのを見つけ、益田はほっと安堵した。

(なんだ、ここに隠れてたのか…)

コホンと小さく咳払いをして、無邪気な悪戯を窘めるようにわざと怒ったような声を出す。

「こら、大人を揶揄っちゃ駄目じゃないか」

ほら、早く出ておいで。そう言って勢い良く扉を開けた益田は、
今度こそ背中に冷や水を浴びせられた気がして、ぶるりと身震いした。

―――クローゼットの中には榎木津の服がぎっしりと隙間なく掛けられていて、
子供が潜り込めるような空間など何処にも無かった。



(落ち着け…そんな事ある訳ない)

「神隠し」や「幽霊」と云う単語が一瞬脳裏を掠めるが、益田はその言葉を必死に否定する。
この科学万能の世の中で、そんな非現実的な事がある訳がない。
それに子供が神隠しに遭うと言われているのは黄昏時の神社や路地裏で、
ましてや幽霊が出るのは夜と相場が決まっている。

そもそも、あんな快活な少年が幽霊である訳がない。
子供は時に大人が思いもよらぬ行動を取って周りを驚かせるものだ。
益田はぶんぶんと頭を振って自らの不穏な考えを打ち消すと、
事務所の扉に手を掛けた。

(急いで帰りたがってたし、もしかしたら
 僕が部屋中を探し回っている内に外に出たのかも知れない)

ここからは元刑事としての勘と推理力の見せ所である。
勢いよく扉を開けて外に飛び出そうとした、正にその瞬間、

「うわぁッ!」
「わっ!何だ!」

そこに居たのは果たして―――

「何だい益田くん、驚かせるなよ!卵が割れたらどうするんだい!」
「か、和寅さん…」

―――そこには、右手に買い物袋を提げた和寅が立っていた。



(4) へ


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益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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