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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★第4話。
あああ「百器シリーズ」アニメ化して欲しい・・・!!







「おかっぱ頭の幽霊が出たァ?!」
「いや、まだ幽霊って決まった訳じゃ…」
「じゃあ、座敷わらしかい?なら縁起が良くっていいや」
「だーかーら、」
「あのなぁ益田くん。そもそも子供が一人で此処に入って来れる訳ないだろう。
 私ゃ買い物に行く時にちゃんと入り口に施錠して出たんだから。ここの鍵は
 私と先生と君しか持ってないんだぞ。猫の子一匹入れる訳がない」
「それは…」

「私がさっき外から帰って来た時も、そんな子供とは擦れ違わなかったぞ。
 第一、今日は水曜日じゃないか。平日の昼間にそんな年頃の子供が
 ウロウロしてる訳がないだろうに。大方、君がソファでうたた寝して
 白昼夢でも見たんだろう。科学的に言うなら、それは“寝呆け”と言うんだよ」
「それのどこが科学的なんですか!僕ぁ真面目に言ってるんですよ!」
「分かった分かった、きっと君は連日の調査で疲れが溜まってるんだよ。
 何なら明日、休みにしてやっても良いぞ」
「もう!和寅さんッ!」

買い物から帰るなり、益田から身振り手振りを交えた“真剣な訴え”を聞かされた和寅は
茶化すようにのらりくらりとした返答をすると、買ってきた食材を冷蔵庫にしまう為に
さっさと台所に立ってしまった。
そして、台所の状態を見咎めた和寅から「ちょっと益田くん!ココアの粉を
零したんならちゃんと拭いといてくれよ!アリが来たらどうするんだい!」と、お小言が
飛んで来るが、もはや益田の耳にはそんな言葉は少しも意味のあるものとして
入って来なかった。益田は台所から出て来た和寅を自分の隣に座らせると、
再び質問を開始する。

「お人形みたいな、本当に綺麗な子だったんですよ。ちょっと日本人離れした感じの。
 あの、榎木津さんのお兄さんの子って事は無いですか?もしくは親戚の子とか」
「馬鹿言っちゃいけないよ。総一郎様はまだ独身でいらっしゃるんだ。
 それにご親戚のお子様に、そんな年頃の男の子は居ないよ」

益田は自分の考えうる可能性をいくつか提示するも、
言った端から悉く和寅に否定されてしまい溜め息を吐く。

「そんなぁ…でも本当に榎木津さんを小さくしたような子だったんですよ。僕ぁてっきり…」
「へぇ、そいつは一目見てみたいもんだな。是非ここへ連れて来たまえよ」
「だから!今まさにその子を捜してるんですってば!」
「はいはい、分かった分かった」

益田の必死の訴えも右から左の和寅だったが、突然何かを思い付いたような顔で
「そうだ!」と叫んで立ち上がると、急いで自分の部屋へと駆け込んだ。

「な、何か思い出しました?!」
「あぁ、おかっぱの男の子で思い出した。君に見せようと思ってた物があったんだ」

あったあった、これだこれ。そう言って和寅は一冊の古びたアルバムを手に、
再び益田の座るソファへと戻って来た。

「先日、昔の写真を整理してたらこんな物が出て来てね。
 君に見せよう見せようと思いながら、すっかり忘れてたんだ」
「写真…ですか?」

自分の真剣な訴えに耳を貸そうともしない相手に内心で不満を抱きつつ、
渋々ぱらりとアルバムの表紙を開いた益田は、そこで今度こそ
本当に心臓が止まるほど驚いた。

「ッ…!?」
「はは、驚いたろう。絵本の挿し絵から抜け出して来たような、西洋の血が
入ってるようなお顔立ちだからね。当時も道を歩けば擦れ違う大人が皆振り向いたもんさ」
「和寅さん、これは…」

益田は微かに己の指先が震えるのを自覚していた。
アルバムの写真に写っていたのは、一人の少年。年の頃は小学校高学年くらいか。

着ている物は白い襟付きシャツにネクタイ。サスペンダー付きの半ズボンを履いて、
すらりと伸びた長い足には膝上まであるアーガイルの靴下。足元はピカピカの上
等な革靴を履いたおかっぱ髪の美少年が、こちらを向いてにっこりと微笑っている―――。

「そんな…まさか…」
「ふふ。そうやって大人しく写ってる分には、まるでヨーロッパの王室の
 皇太子みたいだろう。気品がある。あれで先生も喋らなけりゃねぇ…」
「あの、この写真、どこで…?」
「これかい?これは私の部屋の押し入れの、」
「そうじゃなくて!この写真はいつ、どこで撮られたものなんですか?!」
「ああ、時期かい?これは確か…うちの先生が小学生の頃に、榎木津家の中庭で
 撮られたものだよ。裏に日付けが書いてないかい?」

促されて益田は慌てて写真をアルバムから引き剥がし、裏返す。
そこに書かれていた文字は―――


『礼 11歳 自宅庭にて 1929年10月某日』


「レイ…」
「ああ。それはね、総一郎様が当時、弟である先生の事をそう呼んでらしたんだよ。
その写真も、当時カメラに凝ってらした総一郎様が撮影されたんだ。こう言っちゃ何だが
父上である御前様は少々変わったお方だからね。ご自分の息子の成長を記念して
写真に残そうとか云う発想がそもそも無いんだよ。放っておいても子は育つと言ってね。
飼っておられるキリギリスの観察日記だけは毎日欠かさず付けてらしたけどね。
それに礼二郎坊っちゃん…いや、先生ご自身も仮に父上からカメラを向けられていたら、
こんな無邪気な笑顔を振り撒いたりはなさらないだろうね」

あのお二人は本当に仲の良いご兄弟だから…そう言って懐かしく過去を回想する
和寅の横で、益田は必死に計算する。

現在、昭和28年。西暦に直すと1953年である。
この写真が1929年に撮影されたと云う事は、単純に計算して今から24年前と云う事で、
榎木津は確か今年で35歳の筈だから、24年前と言えば11歳であり、計算としては合う。
合うのだが…

(だけど、それじゃあ…)

モノクロの写真の中で無邪気に笑っている少年…正確には
少年時代の榎木津に向かって、益田は心の中で語り掛ける。

(さっき僕が出逢ったのは、まさか…子供の頃の榎木津さん…?)

当然の事ながら何も答えない写真の中の少年の頬を、
益田は自身の細い指先でそっと撫でた。


(5) へ


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職業:
妄想族。
趣味:
電車で読書。
自己紹介:
益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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