薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 これにて完結。ウチの神は基本的に鳥ちゃんに優しいです。↓↓ 「ちょっ・・・!あの、大将?!」 「全く、鳥ちゃんもウチのバカオロカに勝るとも劣らないバカな奴だ。 そんなに膝枕がして欲しかったのなら最初からそう言えば良いのに延々と あんな下らない話をして。神は心が広いから、どうしてもと言われれば吝かではないのに」 そう言って濡れた髪をグシャグシャと掻き回された。 「うへぇ、だって恐れ多くも神である大将にそんな事ぁ頼めませんよ」 「でも君はここに来たじゃないか」 「・・・・」 そう、あの場所からなら坂の上の古本屋や物憂げな小説家の家の方が 近いくらいだったのだ。ここまで来たなら、ついでに水道橋まで足を伸ばせば 青木だって捕まったかも知れないのに、なぜ自分の足は真っ直ぐここに向かっていたのだろう。 「簡単な話だ。今日の鳥ちゃんは京極の長ったらしい説教や関くんの 毒にも薬にもならん鬱々とした相槌や酒に弱いコケシ君に合わせて飲むより、 空より広く海より深い神の心に触れたかったのだ。そうだろう?」 「・・・それは、」 「違うのかい?」 「違わ・・・ないです」 よしよし、素直な事は良い事だと言って、榎木津は猫でも撫でるような手つきで 鳥口の頭を撫で続けた。 「自分の早とちりで怒られて、約束もない相手には先客がいて、雨に降られて ズボンが汚れただけの話だろう。何をそんなに無い頭を振り絞って深刻に なっているのだ。怒られたなら謝って、捕まらなかった相手とは改めて約束をして、 濡れたら風呂に入ってズボンは洗濯すれば良いだけの話じゃないか。全く、 そんなつまらない事で柄にもなく落ち込んで。鳥ちゃんのくせに」 そう言って、神はうふふと柔らかく笑った。 「今日の君は少し疲れていて、憂鬱で、寂しかった。違うかい?」 「・・・違わない、です。多分・・・」 「だろう。神は何でもお見通しなのだよ。だから・・・」 そういう時は眠るに限るのだ。そう言って、優しく指で両の瞼を閉じられた。 「・・・鳥ちゃん」 「なんですか、大将」 「僕が目が悪いのは知っているね」 「・・・ええ」 いきなり何を言い出すんだろうと訝しく思っていると。 「・・・だから僕には、君が今どんな顔をしているか見えないのだ。 マスヤマみたいにぴーぴーめそめそと声でも出さなければ、鳥ちゃんが どんな顔になっていても僕には分からないよ」 その瞬間、鳥口は鼻の奥がツンと痛くなって目頭が熱くなった。 下にした方の耳に向かってポロリと温かい雫が音もなく零れて、やっと鳥口は 心を覆っていた霧が晴れてくるのを感じた。 同時に、なぜ自分が今宵この事務所に吸い寄せられるように訪れたのかの答えも。 今宵の鳥口が欲していたものは「自業自得だろう」と叱る厳しさでも 「大変だったね」と共感する同情でも「頑張れ」と言う励ましでもなく。 「・・・大丈夫だよ、鳥ちゃん」 そう言ってありのままを受け入れてくれる包容力と、 女のように柔らかくはないが温かい膝の存在だったのだ。 だから榎木津のその言葉に微かに笑って頷いた鳥口の顔は、まるで 迷子になって不安の中をさまよっていた子供が、ようやく母親を 見つけて安堵した時のように穏やかだったのだ。 「神様は僕を見放しちゃいなかったんですねぇ」 ねぇ、大将。そう甘えたような声で問う鳥口の耳に、いつもの きっぱりと自信に満ちた声が降り注ぐ。 「当然だ」 ---雨は、もうすっかり上がっていた。 (終) PR |
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益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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