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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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これにて完結。
郡治は青木の事が、青木本人が自覚してるよりも
ずっとずっと気に入っていて骨抜きになっていると良い。







ライターを忘れたのは、本当に偶然で、そこには作為も駆け引きも思惑も無かった。
駅のホームで胸ポケットに手を入れた瞬間、しくじったな、と素直に思った。
わざわざ財布から小銭を出してマッチを買うのも馬鹿馬鹿しかった。そんなもの
職場のテーブルの上に幾らでも転がっているだろう。そう思い、郷嶋は
咥えていた輸入物の煙草を箱に戻した。タイミングよく、電車が滑り込んできた。

仕事中に公私混同する人間を郷嶋は軽蔑していた。
だから勤務中に青木の事を 考える事はなかったし、捜査一課と
公安課は階も違うので同じ本庁内でも会う事は無かった。

煙草を吸う時のアンタの手が好きだ、と青木が言ったのはいつだったか。
恐らく情事の後のどちらかの部屋の布団の上で発せられた言葉には違いないのだが、
こんな手つきに人それぞれ違いなんか無いだろうと素っ気無く答えたような気がする。

いいんだ、僕だけが違いを分かっていれば。そう呟いてクスクス
笑った青木に噛みつくように口吻けて背中に腕を強く回した。
動物が自分の気に入りの物にマーキングするように、青木にも
自分の吸う外国煙草の匂いが染み付いてしまえば良いと思った。

郷嶋は元来、あまり物に対して執着しない。使えぬ物や不必要な物を
ごちゃごちゃと身の回りに散らばせたり並べたてる事など無意味だ。
だからこそ、郷嶋の周りには彼にとって必要な物しか置かれておらず、
どれを取っても蔑ろには出来ぬ物ばかりだ。少数精鋭の方が良い。
・・・言い換えればそれらは全て、郷嶋にとって遍く「必要」で「大切」な物なのだから。

青木も、いつの間にやらその「必要なもの」の中に我が物顔で入り込み、
当分そのスペースを退く気配はない。

(全く図々しいやつだ。ガキみたいな顔して)

子供というのは強欲で貪欲で我が儘で、己の欲望に忠実だ。無邪気な顔で
当たり前のように欲しい欲しいとねだる。子供なんか、煩いだけで好きじゃない。
それでも目の前のガキを振り払う気には、当分なれそうも無かった。
郷嶋はまだ自覚していない。それを世間一般では「執着」と呼ぶのだと言う事を。
そしてもっと俗っぽい言葉で表すなら、

「惚れた方の負けだよ、郡治」

・・・つまりは、そういう事だ。

「今夜はそっちに泊まりに行ってもいいですか」
明日はアンタ、遅出でしょう?そう言った青木の手からライターを奪い返しながら
「どうせ、いいって言わなくても来るじゃねぇか」
と憎まれ口を叩いてやる。青木は「まあね」と言って、今度こそニッコリと笑った。


“一緒に暮らすか”とは、まだ言ってやらない。



(終)



オマケ。

じゃあ、これから木下と昼飯の約束だから、と青木が屋上から出て行ったあと、
郷嶋はやけに清々しい気分で(外見的には全く分からないが、実は鼻歌でも
飛び出さんばかりに機嫌が良かったのだ)煙草に火を着けようとジッポの蓋を開けた。

・・・その途端、まるで火炎放射器の如くゴーッ!と火柱が上がり、驚いた郷嶋は
ギャッと変な声を上げて後ろにひっくり返った。ひっくり返った衝撃で強かに腰を打つ。
これは今朝、青木が勝手に火量を最大にしたまま戻さなかったせいであり、
それを郷嶋に伝えるのを失念していたせいだ。屋上には郷嶋以外、誰も居なかった為
周りに無様な醜態を晒さなかったのが不幸中の幸いである。

「あのガキ…!!本当にロクな事しやがらねぇ…!!」
心なしか焦げた前髪を掻き揚げながら郷嶋は、最近調子に乗っているあのガキに、
今夜こそは泣いて許しを乞うまで寝台で攻め立ててやろうと心の中で強く誓うのだった。

(今度こそ〆)
 
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