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薔薇十字団に愛を注ぎ込むブログです。
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★これにて完結です。益和って楽しいなぁ・・・!!
なんだか益田がマザコン男のようになってしまいましたが(汗)
それは単に林檎の技量不足なのであって、実際はきっと違いますor2

「手を繋ぐ」という行為は、体を繋ぐ事よりも実は深い愛情表現なのでは
ないかしら・・・と思いつつ書いてみました。平凡である事が実は一番尊いと云う。。
そういう、人生の穏やかな時間を共有できる相手が身近に居るって素敵だなぁと
思います。少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。有り難うございました・・・!!

 











独白のような僕の言葉に、腕の中の彼が小さく笑う気配を感じて僕は手を止めた。

「…和寅さん?」
「ああ、いや。別に馬鹿にして笑った訳じゃないぞ。ただね、君と母上との
 そう云うエピソードを聞いていたら、何だか微笑ましくてね」
「いやぁ、お恥ずかしいです」
「恥ずかしがる必要はどこにも無いさ。ただ、君が普段から私に好きだの何だのと
 擽ったい事を臆面もなく言ってのけるのは、そのせいかと納得した次第だよ」

片方の手が終わり、もう片方の手を僕に委ねながら、
彼は感心したように呟いて再び笑って見せた。

「子供の頃に与えられるべきもの…特に親からの愛情を十二分に
 与えられた人間はね、僻んだり妬んだりしないで育った分、屈託が無いものだよ。
 うちの先生なんかはその代表格だろう」
「いやいや、僕はあんな大人物じゃありませんよ。
 それは一番近くにいる貴方が誰よりも分かっている事でしょうに」
「確かに、君と先生とじゃ月とスッポンだがね、本当に自分に自信のない奴は
 他人にこんな風に真っ直ぐに好意を向けたりしないもんさ。違うかい?」

触れ合う指先を軽く握り返されて、僕はドキリとしてしまう。
そんな僕の動揺を知ってか知らずか、彼は更に言葉を重ねる。

「君が私に今まで何百回と言って来た言葉、私はこそばゆいとか照れ臭いと感じた事は
 数え切れないほど何度もあったがね、ただ…それを嘘だと思った事は一度も無いよ」
「和寅さん…」
「君は気が弱くて臆病でお調子者だが、少なくとも嘘つきじゃない。そうだろ?」
「…はい」
「私ゃ君みたいに達者な口は回らないから君と同じような事は言えないけど・・・
 益田くん、君は…君はいい奴だよ」
「和寅さん…」

彼の言葉に、僕は鼻の奥がツンと痛んだ。子供のように鼻を啜り、彼の握ってくれた手に
力を込めると、彼はそんな僕の気配を察したのか、慌てたように振り返る。

「わ、私にはこれが限界だよ!私ゃ君みたいに恥ずかし気もなく
 好きだの愛してるだのと言えるたまじゃないんだ!だからこれ以上は…!」
「いえッ!あの、僕はそのッ!」

僕は堪らなくなって、目の前の相手を腕の中にきつく閉じ込めた。

「じゅ、充分過ぎます…!その、嬉しいです、有り難うございます…」
「いや、まぁ…」

微かに頬を朱に染めて再び前を向いた彼の柔らかな髪に頬を擦り寄せ、
耳の後ろの匂いを嗅ぐようにしながら薄い耳朶にチュ、と口吻ける。

「ああもう、反則ですって…何で今日に限ってそんな優しい事を言って下さるんです」
「ん…何でって言われても…」

鼓膜に言葉を直接吹き込むように囁くと、彼は擽ったそうにふるりと身を震わせる。

「別に…特別な理由なんて無いさ。ただ、君の母上の気持ちがね、
 君とこうしていると少し分かるような気がするよ」
「母の気持ち…ですか?」
「温かいと嬉しくなって、嬉しいと誰かと寄り添いたくなる。そうして誰かと寄り添ったら…」

僕が耳元に寄せていた口唇を離すと、彼は再度ゆっくりと振り向いた。
彼は僕の目を真っ直ぐ見つめ、至極穏やかな声音で一言、


「相手の喜ぶ顔が見たいと…そう思うものじゃないのかい」


嗚呼、思い出した。僕が母に爪を切られるのが好きだった、もう一つの理由―――。


「…なに泣いてるんだい」
「え…?」
「まったく…君はしょうがないなぁ」

僕が磨き上げた彼の指先が、僕の頬に滴る雫を優しく掬い取る。

「大の大人が、涙もろいにも程があるぞ」
「すいません、僕ぁ感受性が豊かなもので」
「馬鹿」
「ええ。ご存知の通りです」

泣き笑いの表情でくすくす笑うと、腕の中の彼もつられて微笑った。

思い出した。
幼い僕を腕の中に抱いた母は、僕が振り向くといつもこうして穏やかに微笑っていた事を。
その穏やかな瞳に見つめられる度に、僕は言いようのない安息に包まれ、
嬉しい事のあった日にはそれが僕の根幹を満たし、悲しい事があった日には
それが音もなく霧散して行った事を―――

「ねぇ、和寅さん」
「何だい?益田くん」

例えば今の僕なら、貴方の喜びそうな素敵な物を贈る為に、
がむしゃらに働く事も出来るけれど。貴方の為なら、どんな苦労も厭わないけれど。
でもきっと、貴方が望むのはそんな事じゃない事も、今の僕ならよく分かる。

「…今、幸せですか」


(あなたがいれば なにもいらない)


あの頃の僕がそう望んだように、母がそれを与えてくれたように、
貴方もそう望んでくれるだろうか―――

「例えばこの先、何十年か経って…僕が男として物の役に立たなくなったとしても、
 貴方は僕と寄り添って寝てくれますか。僕と…こうして手を繋いでくれますか」
「益田くん、」


金で買える物はいつか飽きるし、替えが利く物はいつか壊れてしまうから。
代わりに僕は背中と指先越しに伝わるものを貴方に贈り続けたいのだけれど、
貴方はそれを僕に望んでくれるだろうか―――

「馬鹿だねぇ…」

ぐい、と僕に凭れ掛かってきた彼の重みすら、僕には充分過ぎる程に幸せで。

「・・・言わなくたって分かるだろう」

“かけがえのない”と云う、使い古された言葉の本当の意味を、
この瞬間に僕は、僕の全てで知る。

「分かってます。でも…貴方の口から聞きたいんです」

ねぇ、いいでしょう?
再び耳元に直接、言葉を送り付けて。くすくすと擽ったそうに微笑う
彼の口唇に小さな口吻けを一つ。

幸せです、和寅さん。僕は幸せです。
貴方もそう感じて下さいますか。
僕の傍で、そう感じて下さいますか。

「益田くん、私は…」


―――嗚呼、貴方の声が耳に届く頃、込み上げる愛おしさで僕はきっと溺れてしまう。



(了)
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趣味:
電車で読書。
自己紹介:
益田は正義だと信じてやみません。若者とオッサンを幸せにする為に奮闘する日々。
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