益田は初めてのキスですら榎が相手だと良い。
ようやく解放された益田は、くたりとベッドに沈み込んでしまう。だが益田自身は
未だ「榎木津の許可」を貰っていない為、己の熱を昇華する事が出来ない。
ふるふると震えながらおずおずと榎木津に視線を送る。
叱られた子犬のような切ない視線で榎木津の唇が動くのを待っている。
実を言えば榎木津は、この時既に8割方機嫌が治っていたのだが、
予想以上に自分の「お仕置き」が彼に効いている事に気を良くして、更なる一手を
考えていた。なるべく長く愉しめて、彼の泣きそうな顔が拝める方法は無いものか。
射精出来ぬよう根元を縛って失神するまで責めるのはどうだろうか。
それとも本当に鞭で少しばかり打ってみようか。いやいや、
「榎木津さん、あの…」
まるで小用を我慢している幼子のように内股をモジモジさせて、
益田が一向に動こうとしない榎木津に声を掛ける。呼び掛けるその声も震えている。
「ああ、なんだお前。そんなに兆してしまったら
身動きが取れないじゃないか。苦しいかい?」
「はい…」
若い益田にはこれ以上の我慢は拷問に近いだろう。さて、どうするか。
「達かせて欲しいか?」
その問いにブンブンと首を縦に振る。相当苦しいのだろう。
そこで榎木津は益田の頭上を凝視して、あるとっておきのアイデアが思い浮かぶ。
我ながらなんて素晴らしい発想だ。
自分が楽しめて益田を困らせるには、これ以上の方法は無いだろう。
「全部飲んだら許してあげるって言ったしね。
特別にこれだけで許してあげよう。神の寛大な心に感謝するんだね」
だから・・・そう言って益田の右手を取って、自分の「ある部分」に導いてやる。
「“ここ”で達きなさい。もう我慢も限界だろう?」
益田は目を見開いて絶句する。
榎木津の指す“ここ”とはつまり、双丘の奥に存在する【神の聖域】である。
◆
事態を飲み込んだ益田は信じられない、と言う顔で榎木津を見つめる。
切れ長の目が、これ以上ないほど見開かれている。
「榎木津さん、でも…」
「聞こえなかったのかい?だったらもう一度言ってあげよう。
お前のを僕の“ここ”に挿れて、僕の中で射精しなさい。お前が僕を“抱く”んだよ」
「そんな…!!」
「“何でもする”って言ったじゃないか。下僕に二言は無いだろう?」
それとも…と、口角をニヤリと吊り上げて榎木津は畳みかける。
しかし目だけは笑っていない。
「さっきのあれは嘘だったのか?僕は嘘つきは嫌いだよ。
それならやっぱり達かせてあげない。お預けだ」
「・・・!!」
益田の目が絶望で見開かれる。猫の目みたいにくるくる変わる感情は、自分が
彼に齎しているものだ。彼を救うのも地獄に落とすのも全ては自分の頭一つである。
完全なる主従。これを快感と呼ばずして何と呼ぼう。
榎木津はチェストから小瓶を取り出して益田の前に放った。
中にはドロリとした透明の液体が入っている。
「潤滑油だ。それを指に取って慣らしてから、挿れろ」
「・・・」
「グズグズしない。早くしないと僕の気が変わってしまうよ。
経験が無くても、やり方くらいは知ってるだろう?」
直接的な物言いに益田の頬がカァッと朱くなる。
彼が自分の経験の無さにコンプレックスを感じている事など重々承知だ。
益田は、榎木津以外の人間と性経験が無い。彼の頭上には何も「視えて」来ない。
彼の頭上に見えるのは自分の姿ばかりである。
榎木津はその事実を実に好ましいと思っている。
自分以外の手垢の付いていない綺麗な体。何を恥じる事があろうか。
榎木津は別に相手の処女性に拘っている訳ではない。
それでも、益田の知る快感の全ては自分が与えたものだと言う事実に
優越感を覚える。自分に抱かれる以上の快楽を、彼はこれから先も知る事は無いだろう。
だから今夜はまた一つ、お前に新しい「歓び」を教えてあげよう。
「…おいで、マスヤマ」
(4へ)
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